第197話 夜の作戦会議

 改めて、俺たちは新しい宿屋を手配すると、外で待機しているフラヴィアたちに魔道具を使って連絡を取る。

 その後、検問所を通ったフラヴィアたちと合流し、宿屋へと直行。

 事前に手配したそれぞれの部屋に入り、荷物を置いたら俺の部屋へと集合した。

 もちろん、これからの作戦を立てるために。


「それで、フィーユ。君のお父さんはどこに?」

「父は恐らく……あそこです」


 フィーユは窓の外を指差す。

 そこには、さっき俺とレクシーが発見し、怪しいと睨んだ大きな建造物であった。


「やはりあそこか……」

「ねぇ、あれって何の建物なの?」


 レクシーが尋ねると、フィーユの表情が強張る。

 どうやら、あまりいい思い出のあるところではないようだ。


「あそこは……父を取り込もうとしている男が経営するカジノなんです」

「カジノ?」

「はい。まだ完成したばかりですが、すでに多くの人の人生を狂わせています。あれが完成してから、この町の治安は大きく悪化しました」

「確かに、ガラの悪い連中がチラホラ視界に入っていたわね」


 それは俺も感じ取っていた。

 華やかな活気の中に潜む禍々しい気配。

 一般人じゃないとは思っていたが、あそこがカジノということは……それ系の人たちってわけか。


「クラークさんもあそこに?」

「はい。元々、あそこはトーレス商会が本店として使用していたんです。最初はほんの一部でしたが、今や建物――いえ、この町全体が彼らのテリトリーになってしまいました」

「フィーユ……」


 ここはフィーユにとって大切な故郷。

 しかし、今は父を騙し、怪しげなカジノが完成して、これまた怪しげな男たちがうろつく町になってしまった。


 それが、たまらなく悔しいのだろう。

 この町のことを語る時のフィーユは涙ぐんでいた。

 

 そんな涙を見せられたら……やるしかないよな。


「とにかく、あのカジノへ行ってみよう。フィーユのお父さんをたぶらかそうとしている連中の顔を直接拝んでみる」

「だったら、また私とアルヴィンで潜入するわ!」


 レクシーが高らかに宣言。

 ――俺としても、レクシーには是非とも協力してもらいたい。

 だが、今回はもうひとり連れていくつもりだ。


「ケーニル。今回は君にも来てもらいたい」

「えっ!? で、でも……」

「問題ない。みんなが検問所を突破する前にこいつを買っておいた」


 俺はケーニルに変装用の衣装を手渡す。


「このフードをかぶれば、顔はほとんど隠れる。あとはマスクで口元を隠せば、魔人族だなんて気づかないだろう」

「そ、そんな……私でいいの?」

「ケーニルじゃなきゃダメなんだ」


 御三家令嬢のフラヴィア&ザラ、そしてローグスク王国のお姫様であるシェルニがカジノに出入りしていたという事実が知れ渡るとまずいだろう。

 しかし、今度乗り込む場所は敵の本拠地。

 少しでも戦力は多く確保しておきたい。

ケーニルはもっと俺たちと一緒に仕事したいって言っていたし、


「ありがとう、アルヴィン! 私頑張る!」


 フンス、と鼻を鳴らすケーニル。

 気合が入っているのはいいことだが……空回りしないよう注意しておかないとな。


 フラヴィアたちにはいざという時のため、外で待機してもらうことにし、俺とレクシーとケーニルでカジノに乗り込む。


 突入は――明日の夜だ。

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