第82話 遭遇

 いよいよたどり着いた砂塵のデザンタがいると思われる最後の扉。


 重厚な造りになっており、どう見たってお偉いさんが待ち構えているといった感じだった。


「さすがにこの城の主がいる部屋へとつながる扉……オーラが違いますわ」

「あ、ああ……」


 フラヴィアとスヴェンさんはゴクリと唾を飲んだ。

 他の三人の表情からも、緊張感が伝わってくる。



 だが、俺はどうにも腑に落ちなかった。

 それはこの城に入った時から感じた不信感にあった。

 一階と二階でモンスターと戦ったが……明らかに手を抜いている。前線の砦を守っていたケーニルや、砦の周辺を泳いでいた地中鮫と比べたら、外部からの対策がかなり劣るんだ。


 そりゃあ、魔族六将って親玉が控えているわけだから、自信があるという点については理解できる――が、それを引いても警備がザルだ。


「……みんな、ちょっと待ってくれ」


 俺は一旦みんなを集めた。


「何かあったのか、アルヴィン殿」

「いや……妙な感じがして」

「妙な感じ――ですの?」


 ドルーとフラヴィアは顔を見合わせた。

 ふたりは特に何も気にはならなかったようだが、俺と同じ考えを持った者は他にも存在していた。


「私もアルヴィンと同じ……ちょっとこの城は変な感じがする」


 ワイルドエルフのレクシーだった。


「レクシーも、か」

「ええ。だけど何が気になっているのか……それがよく分からなくて」

「たぶん、難易度じゃないかな」

「難易度? ――っ!」


 俺の言葉を聞いたレクシーの表情は、何かを閃いたようでハッと目を見開く。


「それよ……難易度よ! いくらなんでも簡単すぎるし……なんだか、自分たちで道を進んでいるわけじゃなくて、ここまで導かれているような……」


 冒険者であるレクシーは、これまで何度もダンジョンを探索している。その実力から、かなり難易度の高い場所へも潜っているのだろう。

 だからこそ、他のみんなよりも反応するんだ。

 他のみんなになくて、レクシーと俺だけにしかない――経験から来る直感が。


「……これはもしかしたら罠かもしれない」

「なっ!?」


 驚くフラヴィア。

 他の三人も同様だが、レクシーも同じ考えだと知ると、一気に警戒色が強くなった。


 恐らく、砂塵のデザンタは救世主ガナードが最初にここへたどり着くと考えているだろう。

だからきっと、罠を張ったんだ。

ガナードの持つ聖剣は、魔族にとって人間界を支配するのに最大の障害となる。だからより確実な手を使ってくるだろう。

 浅はかなガナードのことだ。きっと、調子よく進むことになんの疑問も抱かずこの扉を開けるだろう。その先にあるのは――



「!?」


 

 そこまで考えて、俺は振り返る。

 ――足音だ。

 こちらに迫る足音が聞こえる。

 それはだんだんと大きくなり、他のメンバーの耳にも届いた。


「だ、誰か来ますよ!?」

「い、一体誰が……」

「……決まっていますわ」

「ああ」

「そうね」


 狼狽するシェルニやドルーと違い、フラヴィアとスヴェンさんとレクシーは足音の主に見当がついているようだ。

 もちろん、俺だってついている。

 

 まさか……こんなに早く再開するなんて、思ってもみなかった。



「あ? おまえ――アルヴィンか!?」



 現れたのは、俺をパーティーから追放した救世主ガナードだった。


「おまえ……こんなところで何をしている!?」

「今は冒険者兼商人をやっているんだ。その仕事の関係だよ」

「嘘をつけ!」


 嘘っぽく聞こえるけど、嘘じゃないんだよなぁ。


「アルヴィン……!!」

「ふん! 別にどんな理由でも構わないけど、私たちは忙しいのよ! とっとと失せなさい!」

 

 タイタスはこの前のこと根に持っているみたいだし、フェリオは相変わらず人と会話をする気がない。よくもまあ、その調子でパーティーを続けられたな。


 ――と、見慣れないメンバーがいた。

 彼女が俺の代わりに入ったってわけか。


 エルフ族の剣士……それも、ガナード好みの美少女だ。

 その美少女エルフ剣士の視線は俺に向けられていない。

 

 俺の背後か?

 振り返ると、そこにはフラヴィアがいた。

 どうやら彼女もこのエルフ剣士について何かを知っているようで、驚きに染まった表情で固まっている。



 ――だが、それ以上に気になったのは、フラヴィアの後方に立つレクシーだった。

 まるでこの世の終わりのような表情。

 絶望ぶりでいえば、フラヴィアの比じゃなかった。


「あら?」


 それに、エルフ剣士も気づいたようだ。


「まだ生きていたのね。とっくにくたばったのだとばかり思っていたわ――レクシーお姉様」

「「「「……え?」」」」

 

 俺たち四人の視線は、一気にレクシーへと注がれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る