第158話 鉄塊のアイアレン
鉄塊のアイアレンが待ち構えていると思われる鉱山最奥部。
鉱夫たちでさえ滅多に立ち入らないとされるそこは、なんとも言えないジメジメとした空間であった。
「妙な気配だな……」
「モンスターの姿も急に見えなくなりましたものね」
「警戒していくわよ、シェルニ、ケーニル、ザラ」
「は、はい」
「うん!」
「き、気をつけます!」
レクシーの言う通り、ここからは今まで以上の警戒が必要になるだろう。未だ姿を見せないアイアレン――問題はその能力も未知数であることが多い点だ。
人を金属に変える。
あるのはこの漠然とした情報のみ。
規模や発動条件など、詳細は一切不明なのだ。
だからといって、それをじっくり調べてから攻めるというのも難しい。
銅像にされた人々がいつ命を失うか……それすら分からないからだ。
とにかく、今の俺たちにはもう前進しかない。
「それにしても妙ですわね」
唐突に、フラヴィアがそんなことを言い出す。
真っ先に反応したのはジェバルト騎士団長だった。
「妙というのは?」
「いえ、デザンタもレティルも拠点として城を造っていましたので、アイアレンという魔人族もてっきりそうするものだと思いましたが……」
言われてみれば、確かに。
「ふむ……では、鉄塊のアイアレンはこの鉱山にはすでにおらず、別の場所に城を構えていると?」
「なんとも言えませんが……」
「そ、それでは、我々の進軍がまったくの無意味になるじゃないですか!」
兵士のひとりが慌てた様子で言う。
――ただ、俺はもうひとつの可能性を考慮していた。
「今までの敵に比べたら、あまり拠点地と呼べない場所ですが――他の役割を果たす場所である可能性も捨てきれないと思います」
「他の役割? ……なるほど。この場所はアイアレンにとって城ではなく、別の用途があるというわけか」
「えぇ」
しかし、それがなんなのか――うん?
「……なんだ?」
一瞬、異様な魔力を感じた。
それはデザンタやレティルと対峙した際にも――
「! シェルニ!」
「!?」
俺の声を聞いたシェルニは咄嗟に防御魔法を展開させる。
半円の魔力で出来たシールドが、その場にいた者たちすべてをすっぽりと覆った。
次の瞬間、強力な魔力が地を這うように鉱山全域に広がっていった。
「ぬおっ!?」
「な、なんだ!?」
「何が起きているんだ!?」
兵士たちは大きく動揺するも、シェルニの防御魔法によって影響は出ていない。しばらくして、魔力の波動が弱まったことを確認して、シェルニは防御魔法を解除する。
「ア、アルヴィンさん、今のって……」
フラヴィアが俺に意見を求める。
――が、その顔つきから、フラヴィア自身も答えは分かっているようだった。
俺も同感だ。
「鉄塊のアイアレンだ」
ヤツが放った強力な魔力の波動。
それが鉱山全体に広まっていった。
その行為が意味するところ――俺はテントにあった銅像にされた人々を思い出す。
「今の魔力……もし直撃していたら、俺たちも銅像になっていたな」
「! で、では、さっきのが原因で兵たちが……」
さすがのジェバルト騎士団長にも焦りの色が見える。
と、その時だった。
「むぅ……よもや生き残りがいるとは」
鉱山内に響く男の声。
初めて聞くその声の主こそ、
「あんたが……鉄塊のアイアレンだな?」
「如何にも」
俺の質問にあっさりと答えた男。
身長は優に二メートルを超え、全身は岩石のような肌色。頭髪はなく、鋼の肉体を地で行く筋骨隆々とした肉体の持ち主だった。
デザンタやレティルはやかましい相手だったが、こっちはどちらかというと物静かなタイプらしい。
「人間ごときが吾輩の波動を食い止めるとは……デザンタやレティルが負けたのは単に油断していたからというわけではなさそうだな」
言い終えた直後、アイアレンの顔つきが変わる。
こちらの実力を把握し、全力で戦いを挑む気だ。
だったら、こっちも!
「いくぞ、みんな――戦闘開始だ!」
全力で相手になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます