第157話 魔剣の力

 鉱山へと潜った俺たちは順調に進撃。

 初日が嘘のように、終始スムーズな展開であった。


 すべては騎士団の活躍によるものだった。

 彼らが溢れ出る雑魚モンスターを食い止めてくれているおかげで、本命であるジェバルト隊は難なく中間地点までたどり着いていた。


「この先に、最大の採掘ポイントがあるんだ。鉄塊のアイアレンが根城にしているとすればそこしかないね」


 俺もそのポイントが一番怪しいと睨んでいた。

 その狙いは間違っていなかったようで、モンスターたちの数がこれまでよりも明らかに増え、厳重な守りとなっている。


「あそこを突破するのはなかなか骨ですわね」

「あれ全部を相手にするのはちょっとねぇ……」


 正面突破については、フラヴィアやレクシーが難色を示した。

 俺も同意見だ。

 このまま闇雲に突っ切ろうとするのは危険すぎる。

 だが、ここまでですでに兵は動員しきっていたため、これ以上こちら側の応援には回せない。時間が経てば経つほどモンスターは増え、こちらの状況が悪くなる一方である。

 俺たちは決断を迫られた。


「ジェバルト騎士団長……行きましょう」

「奇遇だね。僕も退く気はまったくなかったよ」


 確かに壁は厚い。

 だが、ここで引き下がっては、繰り返しになる。ヤツはさらに厚い防衛網を敷いて俺たちを迎え撃つだろう。


 それに、レイネス家当主や銅像とされてしまった人たちの安否も気になる。

 これ以上、悠長に構えてなどいられなかった。


「俺が突破口を開きます」


 そう言って、魔剣に魔力を注ぐ。

 俺が放つ魔力に気づいたモンスターたちが一気に押し寄せてくるが、


「はあっ!」


《焔剣》――フレイム・ブレード。

 真っ赤な炎の柱が、モンスターたちを焼き焦がす。


「「「「「おおっ!!」」」」」


 俺の魔剣を始めている兵士たちは思わず声をあげた。

 魔剣の存在を聞いてはいても、こうして実際に生で見ることはなかっただろうからな。


 彼らの歓声に応えるわけじゃないが、どんどんいくぞ。


「お次は《風剣》――ストーム・ブレイド!」


 無数の風の刃が、モンスターたちの体をズタズタに引き裂く。

 まだまだ!


「《氷剣》――アイス・ブレード!」


 天から降り注ぐ氷柱がモンスターたちを貫いていく。


 さまざまな属性の魔法攻撃を一気に浴びせて、その場にいた半分以上のモンスターを消滅させた。


「あ、あれが魔剣の力か……」

「きちんと制御できれば、聖剣にも劣らない力だ……」


 どうやら、騎士団のみなさんに魔剣の力が伝わったようだ。

 これから商売をやる上で、大陸最大国家であるエルドゥーク騎士団にいい印象を持ってもらうのは大事だからな。ただでさえ、魔剣って悪いイメージがつきまとうものだし。


「やあやあ、お見事。さすがは深緑のレティルを討ち取った強者だけはある」

「それほどでも――って、うん?」


 なんだ?

 騎士たちがざわついている?

 俺、何か変なこと言ったかな?


「しまった。君がレティルを討ち取ったことは内密だったんだ」

「えっ?」


 内密?

 そうお願いした記憶はないが。

 ……まさか――


「ガナードがそうしろと?」

「いやいや、そう言ったのは……彼の後ろ盾であるベシデル枢機卿だよ」

「あの人が?」

 

 確かに、あの人ならやりかねないか。

 むしろ得意分野だし。

 恐らく、ジェバルト騎士団長からレティルの剣を聞いた際、俺が元パーティーのメンバーだからとか、そういった理由でガナードの手柄と勝手に変えて大々的に報じたのだろうな。

 相変わらず、やり口が姑息で陰険な男だ。


 それにしても……さっきのジェバルト騎士団長、なんだかわざと周りの騎士たちにガナードのことを話したような?


 俺は咄嗟にフラヴィアへと目配せをする。

 それに気づいたフラヴィアはすぐに意図を理解したらしく、黙ったまま頷いた。


「さあ、この調子で敵の本陣を叩こうじゃないか」


 騎士団長ジェバルトの言葉に士気が高まる兵たち。

 果たして、このままうまくいくのか……少し心配になってきたな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る