第55話 再び未知のダンジョンへ

 ザイケルさん不在の中で俺たちはどうするのか。

 答えは至極簡単――今日もまたあの謎のダンジョンを探索する。


 今回は強力な助っ人が急遽参戦を表明してくれたので、彼女の力も借りて以前よりも奥地を探索しようと考えていた。


 ――のだが、その強力な助っ人であるフラヴィアは、俺が救世主パーティーの一員だったという過去が発覚して以降、なぜかよそよそしい態度を取るようになっていた。


 北門から外へ出て、ダンジョンへ向かう間もずっと無言だ。


「やはり……吾輩がリザードマンだから……」

「そ、それは絶対にないですよ!」


 自分の存在自体が嫌悪感を抱かせているのではないかと落ち込むドルーと、必死に励ますシェルニ。このままではさらに余計なところへ被害が飛び火しそうなので、直接その理由を尋ねてみることにした。


「な、なあ、フラヴィア」

「は、はひっ!?」


 物凄い動揺ぶりだ。

 一体、何がそこまで心を乱すのか。


「どうしたんだ? 何か、気になることでもあるのか?」

「…………」


 フラヴィアは無言――と、思いきや、


「申し訳ありません、アルヴィンさん」

「うん?」

「今はまだ何も言えません。……ですが、その時が来たら、わたくしはきちんと自分の心と声で、あなたにありのままを伝えますわ」

「? あ、ああ……分かった」


 正直、何を言っているのかサッパリなのだが、その発言でフラヴィアの心と体を封じていた呪縛が解けたのは間違いないようだった。


 


 吹っ切れたフラヴィアは、まずドルーとシェルニへ謝罪。


「その全身を覆うたくましい鱗、とても素敵ですわよ」

「て、照れるのぅ」


 ダンジョンへ着く頃にはすっかり打ち解けていた。

 ホントに、順応性の高いお嬢様だ。


 とりあえず、目的地にはたどり着いたので、早速ダンジョンへ潜ることに。

 それぞれ武器を構え、いつでも戦えるよう臨戦態勢を取りつつ、前回進んだあの開けた空間へと向かった。


「まあ……素敵ですわね♪」


 穴の開いた天井から降り注ぐ陽光に照らされた空間。俺たちも最初見た時はその幻想的な雰囲気に圧倒されたが、フラヴィアも同じ感想を持ったらしい。うっとりとした表情で眺めていた。


「お屋敷の中でお稽古ばかりの毎日では、絶対に見ることのできない場所ですわね」

「そうだな」

「冒険者のみなさんはいつもこうした体験をしているのですね」

「いつもというわけじゃないさ。それに、こんな美しい光景を拝めるのはそうそうあることじゃない」

「そうですのね。……やはり、大変な稼業ですわ」


 理想と現実が異なるというのは世の常だ。ダンジョンは決して安全とは言えないし、ここみたく美しい場所ばかりじゃない。


「――ん?」


 そんなことを考えつつ、辺りを注視していた俺は、ある違和感を覚えた。


「これは……」


 明らかにおかしい。

 このダンジョンは今いる空間の先にいくつかの道に分かれていくのだが――昨日来た時よりも、その分岐が多い。

 この異常事態に、ドルーとシェルニも気づいたようだ。


「アルヴィン殿、明らかに昨日とは様子が違うぞ?」

「ど、どうしましょうか?」

「えっ? そうなんですの?」

 

 それぞれがそれぞれの反応と顔色で俺を見つめる。

 さて、どうしたものかな……。

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