第251話 レクシーの苦悩
エルフの森へと向かう道中、レクシーは俯いたまま唇を噛みしめていた。
原因は間違いなく、あの緑髪の女性エルフ――レクシーの幼馴染と呼べるヒルダだ。
「レクシー……大丈夫か?」
俺はたまらず声をかける。
レクシーが話してくれたヒルダとの過去。
それだけを聞くと、ふたりは良好な友人関係を築いているように思えた――が、今のレクシーの表情からはそう受け取れない。
しばらく沈黙していたレクシーだが、やがて、
「……ヒルダは――」
ゆっくりと語り始めた。
「剣を振るうなんてガラじゃなかったわ」
「? どういうことだ?」
「ヒルダはね……植物と本が好きで、家の周りにはたくさんの花壇をつくって、森の子どもたちによく見せていたの。小さかった私もその花壇が好きだったし、ヒルダはよく本を読み聞かせてくれたわ」
「……優しい人でしたのね」
フラヴィアの言葉を受けて、レクシーは静かに頷いた。
「だから、今でも信じられないのよ……あんな精悍な顔つきで剣を携えているヒルダの姿が……」
レクシーは涙声になっていた。
混乱しているのだ。
……無理もない。
幼い頃に会った優しいお姉さんは面影がなくなり、立派な騎士としてレクシーの前に現れた。
それ自体は特段問題ではない。
むしろ、彼女は俺たちにとって仲間側のエルフだ。レクシーにとっては喜ばしいことだとも思ったが――ヒルダというエルフの女性が、騎士としてこの場にいること自体が問題だとレクシーは感じているらしい。
戦いとは無縁だったはずのヒルダが、剣を手にしている。
話が終わった後、レクシーが話しかけようとしたが、彼女は騎士団の人間と打ち合わせに向かってしまい、結局、何も話せなかった。
ピリピリとした緊張に包まれている感覚――それこそが、今のエルフの森が置かれている現状だろう。
元々、エルフ族は好戦的な種族ではない。
人間との接点は少ないが、森で静かに暮らし、こちら側へは干渉はしてこない。稀にだが、レクシーの母親のように人間と結婚する者もいる。
――しかし、解決策はある。
「大丈夫だよ、レクシー」
「えっ?」
「商談がうまくいけば、エルフの森にきちんとした物資が届くようになる。そうなれば、人間側との交流に否定的なエルフたちも協力体制を取ってくれるようになるはずだ」
それこそが、ベリオス様の狙いでもある。
エルフとの友好な関係は、魔王軍との戦いが終わった後でも続けていきたいはずだ。
「アルヴィンさんの言う通りですわ」
「そのために、私たちがいるようなものだしね!」
「エルフの森のみなさんが幸せになれるように、私たちも頑張ります!」
「私と精霊たちも協力を惜しみませんよ!」
「みんな……」
レクシーの目に、再び涙がたまる。
だが、それは先ほどのモノとは違って、悲しみから来るものではない。
エルフの森を目前にし、俺たちパーティーはその結束をさらに強めることができたのだった。
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