第186話 年長組による作戦会議
ダンジョンで遭遇した謎の少女フィーユ。
名前以外のことを語ろうとしないフィーユであったが、ザイケルさんから、とある大商人の娘と同じ名前だという証言を得る。
その商人の名前はクラーク・トーレス。
一代でトーレス商会を大陸トップクラスに押し上げた凄腕商人だ。
「クラーク・トーレス……聞いたことあるわね」
「そうなのか? どんな評判だった?」
「元々は名のある冒険者だったけど、商人の方が儲かるっていって現役を引退。その後は冒険者時代の伝手を利用し、主に冒険者向けの商品を手掛けているって話だったわ。私も何度か利用させてもらったし」
以前はフリーの冒険者として活動していたレクシーには、聞き馴染んだ名前らしい。
「……本人に確認してみるか」
「そうね。でも、もしかしたらシェルニの時みたいに記憶喪失ってことも……」
「それならそれで、なんとかトーレス商会へ問い合わせてみるさ」
シェルニの時は、本当に何も情報がなかったからなぁ。
正直、ローグスク王国側がコンタクトを取ってきてくれなかったら、今でもお姫様だって分からなかっただろうし。
これからのことを話しているうちに、気がつけば店の前まで来ていた。
とりあえず、年長組であるフラヴィアにまず事情を説明してから、他の三人と情報を共有することにしよう。
そう決めて、店に入ると、
「あ、おかえりなさい!」
まずはシェルニが笑顔で出迎えてくれた。
キッチンの方では、ケーニルとフィーユが楽しそうに会話をしながらサラダを盛りつけている。
「ただいま」
「ちょうどご飯の用意ができたところですよ」
「それはいいタイミングだったな。あ、そうだ。フラヴィアは?」
「フラヴィアさんなら、さっき裏庭で馬たちを見ていましたよ」
「ありがとう。ちょっと用があるから話してくるよ」
俺はシェルニにそう告げると、レクシーと共に裏庭へと向かった。
「フラヴィア、いるか」
「あら、お戻りになりましたのね」
髪を縛り、馬たちを優しく撫でていたフラヴィアのもとへ歩み寄り、トーレス商会の話をする。
「トーレス商会……聞いたことはありますわね」
「フラヴィアも?」
「えぇ。商会を通してのやりとりはないですが、オーナーを務めるクラーク・トーレス氏とは何度か直接お会いしたことがありますわ。……ですが、娘がいたというのは初耳ですわね」
御三家に数えられるオーレンライト家とも接点があるとは。
これは想像以上に大きな商会のようだ。
となると、やはり詳しい事情を本人の口から聞く必要があるな。
俺たちは窓から店内の様子を探る。
そこには、シェルニ、ザラ、そしてケーニルの年少組と一緒になって、料理を楽しそうに運ぶフィーユの姿が。
ちなみに、ケーニルは外見年齢こそレクシーやフラヴィアと同じくらいで年長組なのだが、いろいろと人間界の知識不足という点も考慮してそちら側に分類されている。……スタイルは間違いなくトップなんだがな。
「……アルヴィンさん」
「! な、なんだい?」
「今何か……とても失礼な想像をしていませんでしたか?」
「す、するわけないじゃないか。さ、さあ、料理も出そろったみたいだし、店に戻るとしようか」
……さすがはフラヴィアだ。
勘が鋭いし、何より、あの光が消え失せた瞳でジッと見つめられる迫力……あれは魔族六将に匹敵するよ。
気を取り直して、フィーユに真相を語ってもらうべく、俺たちは夕食の並んだテーブルへと向かって歩き出した。
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