第35話 探索開始
氷のダンジョンと呼ばれるだけあって、内部はかなりひんやりとした空気に包まれている。
念のため、それなりに着込んできたのだが……奥に進むにつれてどんどん気温が下がっていき、さすがにこれ以上進むのは難しそうだ。
「とりあえず、この場に境界線を引こう。ここから先は、もう少し装備を整えてから挑戦ってことで」
「それがいいわね」
「賛成です!」
レクシーとシェルニふたりもこれ以上の寒さに耐えられないと感じたようで、一旦来た道を戻り、入り口から近い地点でアイテム探索やモンスター討伐を行うことにした。
その戻る道中で、モンスターが俺たちの行く手を遮った。
現れたのはゆうに三メートルはある巨大なカニ。だが、その体は氷でつくられており、その名もズバリ――
「アイスクラブよ!」
って、レクシーがモンスターの名前を叫んだ。
「ァ、アイスクラブですか!?」
「強固なボディで相手の攻撃を防ぎ、凄まじい冷気を口から吐いて相手を凍らせる……これまで戦ってきたモンスターとは段違いの強さよ!」
段違いの強さ……確かに、そうだな。
それでも、相手の体が氷で構成されているのなら、戦いようはある。
「《焔剣》――フレイム・ブレイド」
氷ならば、炎で溶かせばいい。
体がデカいということもあるので遠慮はいらないだろう。魔力を注ぎ込むと、魔剣を覆う炎はその強さを増していく。周囲の氷が溶け始めるくらいまでになれば、さすがにその巨体でも影響が出てくる。アイスクラブは冷気の泡を吹きながらその頑丈そうなハサミを大きく振りかぶった。
俺を潰す気のようだが――そんな動作じゃ当たってやる方が難しい。
弱っているアイスクラブ自慢のハサミへ向かって、俺は剣を振った。こちらの動作に遭わせて、炎がその斬撃の軌跡を描く。それが終わると同時に、アイスクラブの持つふたつのハサミは綺麗に宙を舞った。
「す、凄い早業ね……」
相手がデカいっていうのもあったけど、少し力を入れすぎたか――と、反省するよりも先に、レクシーから拍手が送られる。一方、シェルニはポカンと口を開けていた。
……そういえば、前にも炎魔法は使ったけど、あれより威力高めにしたからな。どうやらそれに驚いているようだ。
アイスクラブ撃破後、ヤツが出てきた地点から宝箱を発見する。
中身は豪華な装飾が施された短剣。
こいつはそこその値で売れそうだ。
「じゃあ、これはアルヴィンの分ね」
「えっ? いいのか?」
「いいも何も、あたしは何もしてないじゃない。これはアルヴィンの成果よ。それに……正直、あたしじゃあのアイスクラブは倒せなかったかもしれないし」
「そうか? 君も十分強いじゃないか」
初めて会った時、あのダンジョンの最深部まで来ていたわけだしな。しかも単独で。
「そうかしら」
「問題ないと思うけどなぁ……じゃあ、次はレクシーに狩ってもらおうか」
「うっ……あんな凄いの見せられた後だとやりづらいなぁ」
とは言いつつも、ちょうど目の前を横切ったフローズンウルフを手際よく討伐。あれだって、決して弱いモンスターじゃない。俊敏な動きに鋭い爪牙を持つ強敵だが、それをレクシーは難なく狩ってみせた。
「やるじゃないか」
「凄いですよ、レクシーさん!」
「あははは……そう真っ直ぐに褒められると照れるね」
こんな調子で、マイペースに氷のダンジョンを進む俺たち。
――が、異変が姿を見せたのはそれから数十分後のことだった。
「うん?」
一瞬、なんだか地面が揺れたような気がした。
最初は気のせいかとも思ったが、どうやらシェルニとレクシーも同じように揺れを感じたらしい。
一体なんだろう――そう思った瞬間だった。
ガラガラガラガラ!
凄まじい轟音が鳴り響き、そして、
「うおっ!?」
「な、なんなの!?」
「きゃあっ!?」
突如地面が消え去り、俺たち三人は地の底へと落ちていった。
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