第94話 アルヴィンとガナード
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「嫌われ勇者に転生したので愛され勇者を目指します! ~すべての「ざまぁ」フラグをへし折って堅実に暮らしたい!~」
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ガナードたちと戦っていた偽デザンタを倒し、これでこの砂漠に展開していた魔王軍は全滅した。
「さて……これでこの辺りの敵はいなくなったな」
「そのようですわね」
魔剣を鞘へ収めると、俺は「じゃあ、帰ろうか」とパーティーメンバーに呼びかけて出口へと向かう。
「待て!」
そんな俺たちを叫び止めたのはガナードだった。
「おまえがデザンタを倒したっていうのは……本当なのか?」
「ああ。おまえたちがここで偽物と戦っている間、俺たちは隠し階段からデザンタの待つ部屋へと着き、ついさっきまで戦っていた」
俺は隠すことなくそう告げた。
ガナードは勝敗を聞かなかった。さっきの偽物との会話から、俺が勝ったと思ったのだろう。――まあ、ここにこうして俺たちが存在しているということが、何よりの証明になるか。
「言いたいことがそれだけなら、俺たちはもういくぞ」
「! デザンタ討伐の報告をしていかないのか!」
「そんなものに興味はない。俺たちはここのモンスターたちに苦しめられている村の人たちのために戦ったんだ。あいつを倒したことで手柄がもらえるというなら、おまえにくれてやる」
「!?」
ガナードの表情が一層醜くゆがむ。
今語ったことは本心だ。
俺は金や名誉が欲しくてデザンタと戦ったわけじゃない。
これであの小さな村の人たちが救える。
この事実だけで十分だ。
――しかし、ガナードは違う。
「デザンタ自身はあの馬鹿デカい流砂と共に消え去ったが、ヤツの存在が消えたことはきっと把握しているはずだ。――だよな、フェリオ」
俺が声をかけると、フェリオは一瞬ビクッと体を強張らせた。
彼女は魔法使いだ。
他の三人に比べて魔力に敏感だろうから、デザンタほどの巨大な魔力が消え去ったことを感じないはずがない。
もっとも、その巨大な魔力を放っているのがあの偽物だと思っていたという間違いはいただけないが。
己のミスに気づいたフェリオは震えていた。
これ以上はいたたまれないので、立ち去ろうとすると振り返るが、入れ違うようにフラヴィアがガナードのもとへと歩み寄る。
「ガナードさん」
冷めた口調でガナードの名を呼ぶ。
「フ、フラヴィア……」
「ご足労いただいても申し訳ありませんので、ハッキリと伝えておきますわ」
「な、何を?」
「お父様が交わしたというあなたとの婚約話は解消させていただきます」
「!?」
この宣言にガナード本人が驚いたのはもちろんだが、後ろにいたリュドミーラも動揺した。
「はあ!? あなた、オーレンライト家にもその話を持っていったの!?」
「い、いや、これは……」
詰め寄るリュドミーラに、ガナードはたじたじだった。
調子よくいっている時は多少の無茶も許されたのだろうが、今のガナードは信頼を取り戻す立場にある。そんな中で、このような事態が発覚しては、そりゃあっちも怒るだろうな。
しかし、ここでリュドミーラは意外な提案をする。
「アルヴィン――でしたっけ? デザンタを倒したのは事実ね?」
「ああ」
「その功績を譲ってくれると?」
「欲しいならな」
「分かりました。喜んでいただきましょう」
リュドミーラは俺からの提案を呑んだのだ。
だが、プライドの高いガナードがそれを許すはずがない。パーティーから追放した俺から、施しを受ける形になるのだから。
「リュ、リュドミーラ! ちょっと待ってくれ!」
それだけは嫌だと訴えるガナードであったが、
「今のあなたがそんな選り好みをできる立場にあると思っているの?」
これまた冷え切った視線をぶつけながら、リュドミーラは言い放つ。
「本物を倒すどころか、偽物と戦った挙句に勝ちきれず……すべての面であなたはアルヴィンに劣っているのよ!」
「っ!」
うわ。
今のひと言はガナード的に最大級の屈辱だろうな。
ところが、ガナードは反論しなかった。
いつもなら、たとえ正論をぶつけられようが、持論を展開して強引にねじ伏せているはずなのに……少しは自覚してきたのか?
……まあ、少しずつ戦果が出なくなって、町の人たちの反応も違ってきているとは噂で聞いていたから、以前のように堂々と偉ぶることはできないだろう。
タイタスやフェリオも同じような反応、か。
「じゃあな、ガナード」
とにかく、これで――本当の意味でカタがついた。
ようやく商人としての本業に戻れる。
そんな安堵感に包まれながら、俺たちは半壊した砂漠の城をあとにするのだった。
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