第91話 誤算

※新作を投稿しました!


【嫌われ勇者に転生したので愛され勇者を目指します! ~すべての「ざまぁ」フラグをへし折って堅実に暮らしたい!~】


https://kakuyomu.jp/works/1177354054918256498


コメディ色強めとなっております。

よろしくお願いします!


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 魔剣での戦闘を囮にして、俺は本命の仕掛けを実行へと移す。

 ここへ来て、デザンタの方も俺の狙いが分かったようだ。


「てめぇ……何を考えている?」

「そのうち分かるさ」


 相変わらずこちらの視界を塞ぎながら攻撃を仕掛けてくるデザンタ。俺はそれを本命の存在がバレないように偽装しながら戦っていた。


 すでに足元はヤツの首を獲るためのトラップだらけ。

 異変には気づいたようだが、それがどんなものかというところまではたどり着いていないらしい。あくまでも、「嫌な予感がした」くらいか。


 ――だが、その「嫌な予感」っていうのは正しい。


「!?」


 突如、足元の砂の一部が不自然に盛り上がった。

 ようやく時間が来たらしい。

 結構魔力を消費したっていうのに、随分とのんびり屋だな。ただでさえ、こっちは時間がないっていうのに。


「な、何を仕掛けた!?」

「じきに分かる」

「くそっ!」


 先ほどまでとは打って変わり、デザンタの方が焦っている。

 向こうとしては、予想外の展開なんだろう。

 まさかここまで自分が手間取るとは――そういう考えがにじみ出ている。


 俺は剣先を足元の砂へと突き立て。

 すると、それが合図であったかのように、砂が盛り上がっていく。


「な、何!?」

「なんなんですの!?」


 おっと、レクシーやフラヴィアたちには説明していなかったから混乱しているな。ただハッキリと言ってしまえばネタバレになり、相手にも対策を練られるかもしれないので、ここは簡潔に告げよう。


「大丈夫だ、みんな。ここは任せてくれ」


 これだけで、十分だった。

 慌てふためいていたメンバーはそれで呼吸を落ち着け、静かに戦況を見守るようになっていた。


 ……さて、せっかく信頼してもらっているんだ。

 それに応えないとな。


 動揺するデザンタを取り囲むように、盛り上がった砂の下に隠れた四つ存在。そいつがとうとう姿を見せる。



「キシャアアアアアアアアア!!!!」


 

 雄叫びと共に現れたのは天井に頭がつきそうなほど巨大な肉食魔草たち。大きな口には鋭い牙が並び、まき散らす唾液は鉄をも溶かす強酸だ。

 そんな肉食魔草が全部で十体。部屋の隅々にそびえ立ち、俺たちを見下ろしている。


「な、なんだ、これは! 魔草の類か!?」


 どうやら、デザンタにとっても予想外の存在だったらしい。とはいえ、ヤツの言った魔草という点は合っている。こいつは魔剣の魔力で育てた植物――その獰猛さは俺が良く知っている。


「こいつを相手にするのはなかなか骨だぞ?」

「ちぃっ!」


 デザンタの攻撃の矛先が魔草へと向けられる。

 だが、それを先読みしていた俺はヤツの攻撃を受け止めた。


「っ!」

「この魔草の特別性に気づいたか?」

「と、特別だと……?」


 そう。

 俺がこいつらの種を砂の中に仕込み、魔剣で戦闘しつつ、魔力を分散していた。それを吸収し、急激な成長を遂げたこの肉食魔草たちは、魔力を与えた俺の指示通りに動く。これも魔法の一種――こいつらがデザンタ打倒のキーになる。


「こいつに俺を食わせようっていうのか? ――なめやがって!」


 デザンタは激昂し、大声で叫ぶ。

 それは衝撃波となって俺たちを襲った。

 シェルニが咄嗟に防御魔法で俺たちを守ってくれたおかげで被害はなかったが、周囲の壁や天井は吹き飛んでしまった。

 あっという間に戦場が屋外へと早変わり。

 

 そこで気がついたのだが、周囲の景色が動いている。

 つまり、この城自体が、流砂に呑まれかけていたのだ。


「城ごと呑み込むつもりだったのか……」


 あっちは呑み込まれたとしても大丈夫なんだろうが、こっちはそうもいかない。

「シャアアアアアアア!!」


 肉食魔草はさっきの衝撃波で二体やられたが、これは想定内。俺は魔力を操作して他の肉食魔草をデザンタへ向かわせた。


「この程度で俺を倒せると思ったか!」


 デザンタは魔草へと斬りかかり、蹴散らしていく。斬った際に、まるで返り血のごとく魔草の体液をかぶるが、当人はまったく気にしていない様子。

 

「はっはっはっ! 期待外れだったみたいだな!」


 あっという間に半数が倒されたが――それでいい。

 こちらの手数を減らしていると思ったようだが、ヤツは肝心なことに気づいちゃいない。



 その行為が、自分の首を絞めているということに。

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