第31話 開店初日

 セーズの村で一泊した後、持てるだけのラヴェリの実を持ち帰った俺たちは一旦店へと戻る。

 そこで、フラヴィアは屋敷へ、ネモは新たな情報を求めて別の町へ、それぞれの次なる場所へと向かっていった。

 ……そういえば、お嬢様とガナードの関係性について聞きそびれたな。

 まあ、俺としてはあまりガナードと関わりがありそうなことについて避けたいって気持ちがあるから、無理に聞こうとも思わないけど。


 そんなこんなで昼過ぎ。


 俺とシェルニは、店のキッチンで早速ラヴェリの実を使ったジュースを作ってみた。レシピはセーズの村の女性から教えてもらっているので、特に苦労することなく完成させることができた。

 試飲も兼ねて、ちょっと遅めのランチを食べながら、午後からは本格的にこのジュースを売りだすために店先にちょっとした屋台を設置した。


 俺たちが作業をしていると、興味を持った冒険者たちが集まって来た。


「おっ? あの大猿を倒した兄ちゃんじゃないか」

「ザイケルの旦那が言った通り、商人として店を構えていたとはな」

「店内を見てもいいか?」

「どうぞ。まだ品数は少ないけど」


 三人の冒険者たちが早速店を訪れた――と、そこへ、


「あっ! いよいよ始めたのね!」


 以前、ダンジョンで出会ったワイルドエルフのレクシーもやってきた。


「ちょうどいいところに来たね、レクシー」

「? どういう意味?」

「これ、飲んでみてくれ」


 そう言って、俺はラヴェリジュースを差し出す。


「変わった色の飲み物ね……薬草でも入れているの?」

「まあ、そんなところだ。飲んだら感想を聞かせてくれ」

「分かったわ」


 木製のコップを受け取ったレクシーは物怖じせずにがぶがぶと飲み干す。そして、


「うまっ!?」


 高らかにそう叫んだ。


「一瞬凄い甘みを感じるんだけど全然しつこくなくて、むしろ爽やかさすらあるわ! それに……なんだか凄く力がみなぎる感じがする!」


 レクシーのような美人が、大声で製品アピールをしてくれたおかげで、どんどん人が寄ってくる。おまけに、


「ほらほら! 飲んでみて!」


 近くにいた厳ついおっさん冒険者に自分の飲みかけを渡す。おっさんは「い、いいのかな?」と遠慮がちにジュースを口に含んで、「うまっ!?」とまったく同じリアクションを見せてくれた。しかも、ついさっきまでダンジョンに潜っていて、疲労困憊だったにも関わらず、おっさんの体力は見事に回復していたのだ。


 その光景を目の当たりにした他の冒険者たちも、店先に集まってくる。

 

「お、俺にもくれないか?」

「こ、こっちにもくれ!」

「値段はいくらだ?」


 ラヴェリジュースは物凄い勢いで売れていく。

 これだと、昨日仕入れた分は数日で終わりそうだな。

 村の若者が、ここまで運んできてくれる契約になっているが、このペースだとすぐに消費してしまう……ならば、


「悪いが、こいつは一日の個数限定商品なんだ。なくなり次第、本日の販売は中止となるから、今後は気をつけてくれ」

「むっ? げ、限定だと……?」


 限定という言葉に、購買意欲をそそられている様子の冒険者たち。

 その目つき……どうやら、こちらの狙いとは裏腹に、限定という単語が余計に購買意欲を刺激してしまったらしい。

 まあ、数に限りがあることを先に言っておけば、後で数が足りないからってトラブルに発展することもないだろう。


 ラヴェリジュースの売り上げはその後も絶好調で、客足は途絶えなかった。店にあった商品もほとんど売り切れたみたいだし、こりゃすぐにでも補充が必要だな。


 ちなみに、このダビンクに古くからあるアイテム屋や武器屋とは、商品の方向性が変えてある。冒険者たちはそれぞれ自分の特性に合った武器をチョイスしたり、ダンジョンの特性を考慮したアイテム選びをしているので、それがかぶらないようにリサーチをしている。ザイケルさんや、他の同業者たちと潰し合わないための工夫だ。


 そのため、冒険者たちも他の店では手に入りにくい品を入手できてご満悦といった様子だった。この調子で、これからも売り上げを伸ばしていこう。




 辺りが夕闇に染まる頃、俺たちは店じまいをすることに。

 初日の売り上げとしては期待値以上でひと安心。まずは好スタートを切れたことに胸を撫で下ろした。


「やるじゃん♪」


 そこに、レクシーがやってくる。


「いや、正直、君があそこで大きくアピールをしてくれたおかげでもあるよ」

「えぇ? そう? ……じゃあ、お願い聞いてくれない?」


 両手を合わせて腰を屈め、上目遣いにそんなことを言うレクシー。

 売り上げに大きく貢献してくれたわけだし、聞かないわけにはいかないな。


「いいよ。俺にできることならね」

「じゃあさ――臨時でもいいから、あたしとパーティー組んでくれない?」


 そのお願いは、思っていたよりも普通のものだった。

 ワイルドエルフのレクシーが狙うダンジョン……それは、俺だけでなく、シェルニも興味津々なようで、いつの間にか俺の横に立ち、瞳を輝かせていた。


 うん。

 これもまた大事な仕入れ作業だ。

 そのお願い――聞くことにしよう。

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