第30話 変化

 ゴブリンたちの仕掛けたトラップをすべて解除した後、遺跡に住みついたゴブリン討伐クエストの成功を村長へ伝えると、腰を抜かして驚いている様子だった。

 半信半疑だったようなので、村人数人と共に遺跡へと案内し、そこに転がっている大量のゴブリンの亡骸を目の当たりにして、ようやく信じてもらえた。まあ、救世主パーティーでさえ達成できなかったクエストだから、疑う気持ちは分からなくもない。


 しかし、こうして全滅したゴブリンたちの姿を見たことで、村人たちは歓喜の声をあげた。

 そして、ゴブリン討伐を成し遂げた俺たちの活躍を称える宴を開いてくれることになったのだが……どうやら、そこでお目当ての品が出てくるらしい。

 



 夜になると、各家庭が料理を持ち合い、村の中央にある広場で大宴会が始まった。

 俺とネモは酒を受け取るが、シェルニとフラヴィアはまだ法律で飲酒が禁じられている年齢のため、ピンク色をした果実ジュースが配られる。

 

 この果実ジュースというのが、今回の目玉だ。


「こいつに使われているラヴェリの実というのが俺のオススメなんですよ。あ、ちなみになんですけど、俺たちがもらったこの酒にも同じ果実が使われています」

「へぇ……効果は?」

「疲労と魔力の回復です!」

「……こう言ってはなんだけど、普通だな」

「まあまあ、まずは飲んでみてくださいよ」

「どれ……」


 回復効果をうたう物って、割とハズレが多いのだが……。

 とりあえず、一口含んでみると、


「うおっ!?」


 体の中で、何かが弾けるような感覚。

 それは決して不快なものではなく、むしろ飲み終わった後は爽快感に浸れる。それに、転移魔法で大量の魔力を消費し、いつになく疲れていた俺の体が、まるで元の状態に戻ったかのように軽快で力がみなぎってくる。


「こんな凄い効果だとは……村はもっとこいつを押し出すべきじゃないか?」

「もともとは木こりの多い村で、こういった商売に不慣れなことも多いんですよ。ラヴェリの実は、この近辺に限ると特別珍しい果実ではありませんし、やりようによっては大量に手に入るんですけど」


 ネモはそう説明したが……勿体ないな。

 こんな素晴らしい物を眠らせてはおけない。


 俺は早速、村長へ商談を持ちかけた。

 

 高齢者が多く、そもそも村人の数が少ないこの村で、ラヴェリの実は持て余し気味だったという村長は、収穫したラヴェリの実を俺が買い取ることに合意してくれた。即決だったが、「君になら任せられる!」とも言ってもらえたので、こちらとしてもラヴェリを売りだす気力が上がったよ。


 その場で村長が商談の結果を発表すると、再び村人たちは大歓喜。

 特に、ラヴェリの実の収穫作業を主にすることとなるだろう女性たちは、男性以上に喜んでいた。というのも、木こりの多いこの村で、女性がお金を稼ぐ仕事に就くことは難しかった。なので、収穫作業によって自分たちでも収入を得ることができれば、家計を助けることにもなると大変喜ばれたのだ。


 こうして、セーズ村との商談はトントン拍子に進んでいったのである。




 宴会も終盤に差しかかると、村人たちから少し離れた位置でたたずんでいるフラヴィアを発見する。


 さっきまで、村人たちからひっきりなしにお礼を言われ、あたふたしていたが、それも落ち着いてようやくのんびりとしている様子だった。


「大変だったな」


 俺はそんなフラヴィアへ声をかける。

 第一印象こそ最低だったが、今日の働きぶりや、こうして宴会の最後まで残っている様子を見ると、やはり心境に何かしらの変化が起きたことは間違いないようだった。


「わたくし……今日初めて知りました」

「? 何を?」

「自分たちの治めている領地に、ここまで困っている領民の方がいるなんて、思いもしませんでしたわ」


 お嬢様であるフラヴィアが……言い方は悪いけど、こんな辺境の田舎町にまで足を運ぶことはないだろう。なんだったら、その存在すら知らなかったかもしれない。


「ですが、今日こうして問題を解決し、涙ながらにお礼を言われ、喜んでいる姿を見ていると……やってよかったと心から思いますわ」


 それはきっと、素直な本心なんだろうと思う。フラヴィア・オーレンライトは、この日初めて領主らしい仕事を果たしたと言える。その実感が湧いてきたってところかな。これで少しは、今までの態度を改めてくれるといいんだが。


「普通、領主となる貴族はこんなところまで来ないからな。俺としても、君は森に入る前に帰ると思ったけど」

「……それはありません」

「? 何か他に目的でもあったのか?」

「えっ!?」


 なぜか急に狼狽し始めるお嬢様。

 やはり、何か他に狙いがあったのか?


 ……だとしても、今日の働きに関しては素晴らしいものがある。それだけは、認めないといけないな。


「まあ……今日はこれでいいか。お疲れ様、フラヴィア」

「! は、はい!」


 俺とフラヴィアは、静かにグラスを合わせた。

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