第64話 砂漠のダンジョン

 改めて、大きなリュックを背負ったワイルドエルフのレクシーと再びパーティーを組み、砂漠のダンジョンへと挑むこととなった。

 それにしても……砂漠のダンジョン――ここは一筋縄でいかない難所だ。

なぜなら、ここまで挑んだどのダンジョンよりも、敵は強力でしかも活動範囲が広大になっている。そのため、完全に攻略したと断言できるパーティーはこれまで一組たりとも出ていなかった。


 ……とはいえ、俺たちは冒険者が本業というわけじゃない。

 あくまでも店で売れるレアなアイテムを回収するのが目的だ。

 

 なので、冒険者が本業であるレクシーからすると、俺たちのダンジョン探索は物足りない感じがするのだが、


「アルヴィンたちと一緒にいた方が捗るのよ」


 とのことだった。

 まあ、本人がいいと言うならいいか。

 


 いざダンジョンに入ってみると、外にあれだけいた冒険者たちの姿は見えなくなった。相当広いらしいから、鉢合わせになることも少ないのか。


「本当に広いダンジョンなんですね」

「これは探索し甲斐がありそうじゃな」

「でも、あまり深くまで潜ると今日中に戻ってこられなくなりそうですわね」

「そうだな。道に迷う危険性もあるし」

「その点は心配しなくていいよ。この先に少し開けた空間があるんだけど、そこまでだったら道の分岐は多くないから簡単に戻れるわ」


 道中、俺たちは会話をしながらのんびりと歩いていた。レクシーとフラヴィアも、今は普通に会話ができているので、両者の関係性について探るのは一旦保留だ。

それにしても、ダンジョンにいるというのに緊張感がないって感じもするが……これが俺たちパーティーの持つ空気なんだと、最近はそう思うようになった。

 無理に肩肘張って緊張するより、自分たちがやりやすいような雰囲気でダンジョンを探索するのも、堅実な冒険には大事な要素だ。あくまでも持論だけど。



 しばらく歩いていると、足元に違和感を覚えた。

 

「うん? ……砂?」


 入った直後は至って代わり映えのしない地面だったが、奥へ進むとそれがすべて砂へと変わっていった。


 これが砂漠のダンジョンと呼ばれる理由か。

 さらに奥へと進むと、開けた空間へと出た――ここが、さっきレクシーの言っていた場所か。

 

「この空間がひとつの分岐点というわけですね」

「ああ……しかし、なんとなく北門から行く新しいダンジョンと構造が似ているな」


 あそこは条件によって進む道が変化するっていう変わったトラップがあったけど、ここにも砂漠ってこと以外に何か仕掛けがあるかもしれない。


 それにプラスして、まだモンスターと遭遇していないというのも気味が悪い。

 やはり、ここからは今まで以上に警戒レベルを上げて探索する必要がありそうだ。


 俺たちは慎重に、砂で覆われた空間を歩いていく。

 すると、すぐに変化が訪れた。


「うおっ!?」


 突如、足場が大きく横揺れを始める。


「……前にもあったな、こんな展開」


 前回潜った新しいダンジョンでも似たようなことがあった。あの時は確か……デカいカメのモンスターだったが、今回は――


「キシャアアアアアアアアア!!!!」


 サソリだった。

 大きさ的にはあのカメと同じくらいかな。

 砂の中から出現したそいつは、手近にいた俺へ向けて巨大なハサミを振り下ろす。押し潰すつもりなのだ。アイスクラブもそうだが、この手の連中は体格差を生かして力勝負に出る傾向があるな。

ともかく、振り下ろされたデカいハサミを逆に斬り落としてやろうと魔剣に手をかけた――が、結局、そのハサミは俺に届くことはなかった。


 ガン、という強い音がダンジョン内に響き渡る。

 俺の頭上一メートルまで迫っていたサソリ型モンスターのハサミは、見えない壁にぶつかったかのように弾かれた。


 もちろん、やったのはうちのシェルニだ。

 防御&回復魔法のスペシャリストとして、うちのパーティーには欠かせない存在となっている最古参。


「ありがとう、シェルニ」

「い、いえ、無事で何よりです!」


 シェルニに礼を言った後、俺は魔剣を構え直す。

 ドルー、フラヴィア、レクシーも同様に臨戦態勢となった。


 さて……新生パーティーの初戦闘といくか。

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