第162話 代償
「決着をつけさせてもらう」
「それはこちらのセリフだ!」
アイアレンが巨大な岩石を投げつけてくる。
「《風剣》――ストーム・ブレイド!」
風をまとわせた魔剣でそいつを両断した後、俺は素早くヤツの懐へと潜り込んだ。――そして、
「はあっ!」
「ぐああっ!?」
アイアレンの右腕が宙を舞った。
これでヤツの動きをさらに制限できる――と、
「はあっ!」
「!?」
強烈な気配を感じて、俺は本能的に飛び退く。すると、さっきまで俺がいた位置に巨大な鉄塊が落ちてきた。
ヤツの攻撃か。
そう思って振り返った瞬間――俺は目を疑った。
「腕が!?」
つい数秒前に吹き飛ばしたはずのアイアレンの右腕が、まるで何事もなかったかのように復活していたのだ。
「無駄だ!」
アイアレンの全身をまとう魔力が形を変えていく。
すると、肩口から腕がさらに二本生えて四本腕となった。
ヤツを倒すには、全身丸ごと消滅させるしかないってわけか。
「くらえっ!」
文字通り、アイアレンの鉄拳が降り注ぐ。
四本腕からの猛烈な攻撃の数々――経験のない攻撃に戸惑いつつも、打撃の癖を見抜ければ回避は容易。あとはタイミングを合わせて、
「おらぁっ!」
「がはっ!?」
カウンターを食らわせればいい。
「ぐぅ……」
脇腹に強烈な一撃。
魔力供給を断たれた今、ヤツは自らの肉体をさっきみたく強固に維持することが難しくなっていた。
防御力を失いつつも回復ができない。今ならば、ストーム・ブレイドでその自慢の肉体だって斬れる。
「クソがぁ……たかが人間ごときにぃ……」
ダメージの回復さえも間に合わなくなってきたか。
すでに、本来持つアイアレンの魔力量を大きく超えた力を放っている。そのツケが回ってきたようだな。
「トドメだ」
俺は最大規模の魔力を魔剣へ注ぐ。
肉眼でも確認できるほど濃い魔力が、俺の周囲を覆っていった。
――時間がない。
これで決着だ。
「おのれぇ!」
相手も魔族六将に数えられる魔人族なだけはある。
絶望的な状況にあっても、最後まで将らしく戦おうと、残った魔力をすべて己の体にかき集めていた。
ヤツの狙いは読めている。
最強の硬度で俺の魔剣を受け止め、へし折る気だ。
俺の魔剣とヤツの体――そのどちらが強いか、ハッキリさせてやる。
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」
小細工はいらない。
真っ向からのぶつかり合い。
魔剣がヤツの体に触れあった瞬間、激しく金属がぶつかり合う音が響き渡る。そして、
「バ、バカなああああああああああ!?」
アイアレンの体が真っ二つに割れた。
全力をかけて全身を硬化させたみたいだが、前半戦の魔力消耗が最後まで尾を引き、敗れたのだ。
「……向こうが全力だったら危なかったかもな」
これが、本気を出した魔族六将の実力。
残りは三人となったが……これはこれからが大変だぞ。
特に、師匠でさえ勝てなかった氷雨のシューヴァル……ヤツは間違いなく、六将最強だろう。残りふたりも、きっと対策を万全に整えてくるはずだ。
「……もうちょっとガナードがしっかりしていれば、こっちが出張ることなんてないんだけどなぁ」
愚痴っぽく漏らしながら、魔剣を鞘にしまう。
まさにその時だった。
パキン!
「えっ……?」
魔剣が折れた。
アイアレン最後の執念が、俺の魔剣に届いていたのか。
――いや、それもあるが、やはりこれまでの激戦によってもう限界スレスレだったのかもしれないな。
「って、呑気に考えている場合じゃない!」
間もなく、この鉱山は完全に崩落するだろう。
俺は急いで折れた魔剣を回収し、出口を目指した。
さて……どうしたものかな。
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