第59話 アルヴィンVSタイタス
「タイタス……なぜここに?」
「それはこちらのセリフだ、アルヴィン」
「俺は仕事だ」
「ほう……冒険者に転職したか」
「まあ、そんなところだ」
「ふっ、貴様らしい落ちぶれようだな」
「そういうおまえはどうしてこんなダンジョンの奥にいる?」
「修行の一環だ。今、ガナードはいろいろと立て込んでいてな。世界を救う使命を背負った者なんだ……おまえと違って暇じゃないんだよ」
俺をパーティーから追放したひとり――聖拳士タイタス。
その性格を言葉で表現するなら、「静かな狂戦士」ってところか。
ガナードと同じく、ベシデル枢機卿によって見出された救世主パーティーの一員で、その戦闘能力はかなりのものだ。
ただ、性格には難がある。
というのも、タイタスは自身のあくなき向上心を満たすため、常に強者を求めていた――と、本人は語っているが、俺からすればただの弱い者いじめだ。デカい体の割に、陰湿なところがあるからな、タイタスは。
以前からそうだった。
町で手当たり次第に難癖をつけ、相手を痛めつける。その様を見て悦に浸る……まあ、言葉を選ばずに言うなら「変態」だ。ヤツの起こした暴力事件を解決するため、俺は何度も奔走したっけな。
そんなタイタス最大の武器は今も着用しているガントレット。
ガナードが聖剣を、そして俺が魔剣を装備しているように、タイタスにも愛用としている武器があった。それがあのガントレットなのだが……あれから放たれるヤツの拳の威力は想像を絶する。
俺としては二度と会いたくない相手のひとりだが……ガナードがザラに会いに来るらしいから、この辺りにいることは分かっていたとはいえ、まさかこんなところで再会することになろうとは。
「…………」
タイタスは何も語らず、ジッと俺を――いや、俺の背後を見つめている。
そこにいるのはドルー、フラヴィア、シェルニ、そして、シェルニの肩に座って羽根を休めているアクアムの四人。
「随分と充実しているようだな」
「……おかげさまでね」
俺には分かる。
今のタイタスの言葉には続きがあることを。
本人は口に出していないが、きっとこう言いたかったに違いない。
生意気だな、と。
ガナードの命によって、魔剣の使用を封じられていた俺は、救世主パーティーに在籍していた際、一度も魔剣を使って戦ったことがない。なので、タイタスの中での俺のイメージは、「聖騎士の弟子というコネだけで救世主パーティーに名を連ねるロクデナシ」といった感じか。
――だが、今は違う。
俺はもう誰にも縛られない。
この魔剣も……いや、生き方そのものさえ、俺自身が選択する。
「……ふん」
どうやら、俺の態度が心底気に入らなかったようで、タイタスは自慢のガントレットをガチンと突き合わせて構えた。
「来い。手合わせをしてやる」
「何?」
「いいだろう? 冒険者となったおまえがどれほど強くなったか、確かめてやる」
……嘘だな。
あいつがそんなことを言うはずがない。
狙いはもっと別のところにあるはず。
「だが、ただ普通にやり合うんじゃ面白みがないから――賭けようか」
「賭ける? 何を?」
「パーティーのメンバーだ」
なるほど……それが本命か。
しかし、それはちょっとどうかと思うぞ。
何せ、こっちには御三家の関係者が二名もいるんだ。そのような行為がもし当主に知れ渡ったら、救世主パーティーとしても大幅なイメージダウンにつながる。
それを忠告しようとしたが、
「始めるぞ!」
こちらが返答する前に、タイタスは攻撃を仕掛けてきた。
こういう卑劣な手を平然と使うところも変わっていないな。大体、俺が負けた時の条件は聞いたけど、肝心のおまえが負けた時の条件がまだ決まってないじゃないか。
いつも自分より弱い相手にしか喧嘩を売らず、しかもその大半が不意打ちによる勝利――聖拳士の名が聞いて呆れる。
「おらあっ!!」
ガントレットで覆われた拳が俺の顔面に向けて放たれる。
……動作が大きすぎるところも変わっていないな。
「よっと」
俺は難なくその一撃をかわし、足を引っかける。
「ぐおっ!?」
バランスを崩したタイタスは派手に転倒。起き上がって反撃しようとするも――その時にはすでに俺の魔剣が喉元に添えられていた。
「勝負ありだ、タイタス」
俺はそう言い放つも、タイタスの耳には届いていないようだった。
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