第24話 手掛かり

 視線を上に向ければ、そこには抜けるような青空が広がっている。

 だが、俺たちが足を踏み入れた奴隷商の館はそんな爽やかな青空とは正反対に薄暗くてジメジメしていて不気味だ。


 ここにはマーデンの配下によって集められた奴隷が数人捕らえられていたが、その子たちもすべて救出され、ザイケルさんが呼んだ王国騎士団によって保護された。あの子たちからも事情を聞くらしいが……それで黒幕に関わる情報が少しでも引きだされることを願うしかないな。

 

「とりあえず、光を入れるか」

「ですね」


 俺とシェルニは手分けして館一階の窓という窓を開けていく。

 すると、館の全容が明らかとなっていった。


 一階部分には目立ったところはない。

問題は地下だ。


そこは実際にオークションが行われていた会場で、ここには事務所も併設されており、オークションに参加していた顧客の名簿もあったらしい。それによると、かなりの大物も名を連ねていたようで、ザイケルさんは「こりゃあ、王都でひと波乱あるぞ」と楽しそうに語っていた。


 全体的に負のオーラが漂う館だが、この屋敷のどこかに……記憶を失くしたシェルニに関する情報があるかもしれない。

 というわけで、太陽の明かりを取り込んで若干不気味さが緩和した館内を捜索していくことにした。


「やはり、奴隷の子たちの情報を扱っていた事務所から当たってみるか」

「私は一階部分を探してみますね」

「ああ、頼むよ」


 二手に分かれて情報収集開始。


 地下の事務所に残された大量の書類。

 顧客名簿以外はほとんど手つかずの状態であり、これから北門の開放と合わせて騎士団が乗り込んだ後にいろいろと接収されるだろうから、その前にできる限り関連する資料は回収していきたい。


 そんな思いで事務所の書類を確認していたが……さすがに連れてきた子の詳細な記録は残っていないか。

 保護された子たちの年齢や種族はバラバラだったし、とにかく手当たり次第に連れ去ってくるか、条件を突きつけて親から引きはがしてきたか……いずれにせよ、真っ当な連中じゃないっていうのは確かだな。


「決定的な情報はなかったな。――ん?」


 ほとんどの書類を読み終え、立ち上がろうとした瞬間、たくさんの書類の合間からスルッと一枚だけが抜け落ちた。

 それは見逃していた最後の一枚。

 奴隷として連れてこられた子のパーソナルデータなのだが……


「この特徴……間違いない! シェルニのことだ!」


 銀の髪。

 青い瞳。

 身長や顔の特徴も――シェルニと合致する。

 

「何か分かることは……」


 その紙に書かれた情報を読んでいくが、残念ながらシェルニが何者であるのか、具体的な記載はなかった。

 だが、ひとつだけ目にとまった項目がある。



《最重要案件》



 他の字よりも大きく書かれており、強調されている。

 特記事項ってわけか。


 ――が、肝心のその部分は破り捨てられていた。

 自然に破れたわけじゃなく、これを読んだ人間が意図的に破ったように見える……恐らく、外に漏らしたくない情報だったのだろう。シェルニには、それくらい重大な秘密が隠されているというわけか。

 ……もしかしたら、奴隷商たちをまとめあげていたのが元魔法兵団のメンバーであるマーデンってことも何か関係しているのか?

 こうなってくると、マーデンってヤツのことも調べた方がよさそうだ。


「……まあ、それが分かっただけでも収穫か」


 なんとなく、シェルニは普通の女の子じゃないって気はしていたけど、これでそれが確信に変わった。


 俺はその書類を手にし、事務所をあとにする。 

 一階にいるシェルニと合流しようと思って、俺は階段をのぼった。シェルニはすぐに見つかったが、手にしたネックレスをジッと見つめて動かない。


「どうかしたのか、シェルニ」

「あっ……アルヴィン様……」


 こちらに顔を向けたシェルニの表情は曇っていた。


「そのネックレス……覚えているのか?」

「すみません。ハッキリとしたことは……でも、以前、これを身につけていたような気がします」

「そうか……」


 手にしたネックレスが何を意味しているのか……それはシェルニ本人には分からないようだが、いつかきっと、その過去を知るための大きなヒントとなるに違いない。


「なら、そのネックレスは持ち帰られるように交渉しよう」

「ありがとうございます!」


 ようやく、シェルニがいつもの笑顔を取り戻した。

 うん。

 やっぱりシェルニはこうでなくちゃな。




 決定的な事実を掴むことはできなかったが、シェルニの過去にまた一歩近づくことができた。

 ゆっくりでも、着実に前進していけば、いずれ真実にたどり着ける。

 シェルニをそう励まして、俺たちは館をあとにした。

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