~最終章~
第277話 闇色の空
ブライス王子が店を去って一ヶ月が経った。
あれから、ここで得たコネクションを使っていろんな人のところへ足を運んでいるらしいが……進捗状況は依然としてハッキリと分からなかった。
「しかし驚きましたよ、あのジャックがブライス王子だったなんて」
「俺もだよ」
俺は店番をしながら、「近くに用があったから」という理由で顔を出したネモと世間話をしていた。
フラヴィアとザラは裏庭で花壇の手入れ。
シェルニは夕飯の仕込み。
レクシーとケーニルはダンジョン攻略中。
店内にはネモを除くと若い女性と中年男性の客だけ。日中はみんなダンジョンに行くから、暇な時間帯なんだよな。大体は向かう途中の朝方か攻略を終えて町に戻ってくる夕方辺りが忙しいのだ。
「そういえば、いよいよ三日後に迫りましたね」
「? 何が?」
「何がって、リシャール王子率いる連合軍が魔界へ乗り込む日ですよ」
「あぁ……もうそんなに経ったのか」
リシャール王子の呼びかけに応じた国から、続々と騎士団が集結しつつあった。その兵力は十万を超えるとさえ噂されている。
さらに、魔界へは次元転移魔法を使用するそうだが、そのために世界中から名のある魔法使いを集めているらしい。
「リシャール王子としては、《世界三大魔法使い》くらい著名な魔法使いを呼びたかったみたいですが……叶わなかったようです」
「あれはほとんど伝説的な存在だからなぁ」
まあ、魔法兵団にしても各国から精鋭が揃っていると聞くし、そもそも聖剣を持つリシャール王子がいるんだ。
問題なのは――ブライス王子の方だ。
あれから、各地を飛び回っているという報告をヒルダから聞いたが……具体的な話は聞こえてこない。あきらめたとは思えないが、あまり進んではいないようだ。
「アルヴィンさん、わたくしとザラさんは少しお店を出ますわ」
「花壇に使う肥料が終わっちゃったので、買ってきます」
「分かった。気をつけてな」
フラヴィアとザラが店を出るのを見送ると、俺は店番で固まった体をほぐすようにいっぱいに伸ばす。
「平和だなぁ……」
種族の存亡をかけた一大攻勢が始まる前日とは思えないくらいの日和。
こんな時間がこれからも続いてくれたらいいのだが――
「うん?」
窓から店先の光景に視線を送っていた俺は、ある違和感を覚えて立ち上がった。
「どうかしましたか、旦那」
「いや……なんだかおかしいぞ」
異変を感じ、たまらず店を飛びだす。
「何があったんですか、旦那!」
俺を追う形でネモも店を出る――と、
「「あっ!?」」
思わず同時に声が出た。
周囲の人々も、その異様さに驚きを隠せず、ダビンクの町はパニックに包まれた。
原因は――空。
先ほどまでは抜けるような青空だったのに、今は違う。
空が闇色に染まっていく。
一瞬、夜なのかとも思ったが、空が暗い割に周囲は明るいままというのは変だ。
何より俺が異常だと感じたのは闇色の空だ。
青空を覆ったあの暗雲には……魔力を感じる。
「これは……」
一体、何が起きているのか。
異変の正体を突きとめようとした――その時、
「モンスターだぁ!」
遠くで、誰かがそう叫んだ。
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