第276話 【幕間】集う力

 ローグスク王国。


「国王陛下!」

「なんだ? いつにも増してやかましいじゃないか、コナー」

「シェルニ姫様からお手紙が届きました!」

「何っ!? 本当か!?」


 王国騎士のコナーが差しだした手紙を受け取った初老の男性こそ、シェルニの父親にしてローグスク王国の現国王である。

 国王は娘からの手紙をじっくり眺め――読み終わると「ふぅ」と息を吐く。

 気がつくと、王の間にいるすべての人間が国王へと注目していた。それだけ、みんなシェルニからの手紙の内容が気になっていたのだ。


「ふっ、安心しろ。シェルニは元気でやっているようだ」


 それを聞いた途端、歓声が沸き上がった。

 だが、直後に国王は静かにするよう騎士たちに呼びかける。


「手紙の内容だがな……もうひとつ重要なことが書かれていた」

「と、言いますと?」


 コナーが尋ねると、国王はゆっくりと語り始める。


「エルドゥークのブライス王子が会談を希望されているようだ」

「!? エルドゥークのブライス第一王子が!?」


 先ほどまでの和やかなざわめきとは違い、今度は戸惑いや疑問の感情が混ざるざわめきとなった。


「エルドゥークといえば、先日リシャール王子が大軍勢を率いて魔界へ乗り込むという話が出ていましたね」

「うむ。うちは兵力が乏しいためか参戦の要請はなかったが……どうやらブライス王子はアルヴィン殿を経由して我々にコンタクトを取りたいと願い出たらしい」

「……いかがいたしますか?」

「会おう」


 ローグスク国王は即決した。


「人間性についてはアルヴィン殿も太鼓判を押しているようだしな。そうと決まったら早速手紙の返事を書くとしよう」

「かしこまりました」

 

 こうして、まずはローグスク王国がブライス王子支援に動きだしたのだった。



  ◇◇◇



 オーレンライト家の屋敷。


「そうか……やはりブライス王子は独断で動いていたか」

「そのようですわね」


 ブライス王子の件を伝えるため、フラヴィアは実家へと戻っていた。

 娘の話を聞いた当主のベリオスだが、その顔に驚きのいろは見えない。こうなる事態を予想していたのだ。

 また、これはベリオスにとって追い風になるとも感じていた。

 アルヴィンが救世主パーティー入りを断ったように、ベリオスもまたリシャール王子に対して不信感を抱いている。なので、もしブライス王子がここで結果を出せば、国民の意思もリシャール王子からブライス王子に傾くのではないかと考えた。本来ならば長男であるブライス王子が王位を継承する順位が高いため、国民も納得するだろう。


「フラヴィア……ブライス王子は会談を希望していると言ったな」

「えぇ」

「それを受けよう。私も王子と話をしてみたい。直接お会いしたことはないが、あのアルヴィンが認めたくらいだ……きっと、王の器として相応しい人物なのだろう」

「分かりましたわ」


 ローグスク王国に続き、オーレンライト家もブライス王子との会談へ向けて準備を進めていった。



  ◇◇◇



 レイネス家の屋敷。

 

 フラヴィア同様、ザラもまた実家へと戻り、近況報告とブライス王子の件を当主である父に伝えていた。


「なるほど。状況は理解した。ブライス王子に会ってみようじゃないか」

「ず、随分とあっさりお決めになりましたね、お父様」


 思慮深いレイネス家当主があまりにもあっさりと決めたものだから、娘のザラは驚きを隠せないでいた。


「まあ、あのアルヴィンが言うくらいだから間違いはないだろう。もちろん、直接会ってその人間性を確かめないことには具体的な支援策は出せないが」


 娘のザラを通して深いかかわりのあるアルヴィンには信頼をおいている。そのアルヴィンが認めている――とはいえ、レイネス家当主は自らの目でブライス王子というひとりの人間を見極めようと考えていた。




 それぞれの思惑が交差する中、ブライスは弟リシャールとまったく違うアプローチから対魔王軍のための戦力を募り――それは少しずつだが着実に集まりつつあった。

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