第275話 協力表明
リシャール王子とは別の対魔王軍組織。
それを実現するため、ブライス王子は独自に動いていると語った。
だが、王家の中でのブライス王子の立ち位置はかなり低い。
今だって、ヒルダ以外に彼のお付きは誰ひとりとしていないときている。
「まあ、だからこそ自由に動けるっていうのはあるんだけどね」
自虐気味に言いながら、ブライス王子は苦笑いを浮かべた。
「メンバーのあてはあるんですか?」
「一応、な。……しかし、俺はちょっとキナ臭さを感じているんだ」
「キナ臭さ……?」
「エルフの森での一戦――君はどう見る?」
エルフの森での一戦……魔族六将のひとりである幻影のファンディアとの戦いか。
「……正直言って、雑に感じました」
「やはりか」
報告を受けたブライス王子も同じ感想を持ったようだ。
なんていうか……第一印象は「焦っている」という言葉が思い浮かぶ。
これまでの魔族六将は、まだ下準備があった。
デザンタもレティルもアイアレンも、自分の得意なフィールドで戦いを優位に進めようという背景が透けて見えていた。
ところが、どうにもあのファンディアの件は違う気がしてならない。
付け焼刃というか、明らかに準備不足だった。
これまで倒された魔族六将の数を考慮すれば、もっと慎重に事を運んでもよさそうなものだが……この状況になっても、まだ自分たちの方が圧倒的に有利だと思っているのだろうか。
仮に、心からそう思ってくれているなら、魔王軍討伐は容易だろう。
それこそ、リシャール王子とその配下の軍勢だけで制圧できてしまいそうだ。
――が、俺もブライス王子も、そうではないと睨んでいる。
何かが起きているんだ……魔界で。
そう思った時、真っ先に思い浮かんだのは、かつて師匠と戦ったという氷雨のシューヴァル。
ヤツだけが、未だに静観を貫いている。
目立った動きを見せていない。
それだけが不気味であった。
「……魔王軍は一枚岩じゃないかもしれませんね」
「俺もそう思っていた。やはり、君とはいろいろと気が合いそうだ」
「えぇ。俺も同じ気持ちです」
「それは嬉しいな」
ブライス王子の手が伸びる。
俺はそれを受け入れ、握った。
固く握手を交わして――俺は自分の気持ちを素直に伝えた。
「ブライス王子……俺にあなたのお手伝いをさせてください」
「! い、いいのか? 君はリシャールからの誘いを断っただろう?」
「俺はブライス王子のお手伝いをしたいんです。――魔剣使いの商人として」
「わたくしもお手伝いいたしますわ」
続いてフラヴィアが名乗りをあげる。
御三家の一角であるフラヴィアの協力は、後ろ盾がほとんどないと言っていいブライス王子にとって心強いだろう。
こういう流れになると、
「わ、私もお手伝いします!」
今度はザラが手を挙げた。
オーレンライト家と肩を並べ、御三家に数えられる大貴族のレイネス家。こちらも強力な助っ人言えるだろう。
「私も手伝います!」
さらに手を挙げたのはシェルニ。
ローグスク王国の姫であるシェルニも心強い存在となるはずだ。
「あたしはハイゼルフォードの名前を使えないけど……戦力としてなら期待してもらっていいわよ」
「戦うなら私にもできるよ!」
こうなるとレクシーやケーニルも協力の意志を表明する。
――まあ、つまり、うちの店は全面的にブライス王子をバックアップすることになったのだ。
「感謝する……!」
俺たちの協力表明に、ブライス王子は思わず涙を流すのだった。
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