第233話 夜に想う

 ダビンクで起きていた謎の詐欺事件。 

 その黒幕は……元救世主パーティーの一員であるフェリオの可能性が高い。




「…………」


 ザイケルさんたちを町の診療所へ送り届けた後、俺たちは店へと戻って来た。

 シェルニたちは寝室へ向かったが、俺はすぐに寝る気分にならなくて、みんなが部屋に入っておくのを見てから、ひとりキッチンへと向かう。


「ふぅ……」


 イスに腰かけ、息を吐く。

 コーヒーを飲もうとしたが、眠れなくなるのは困るので果実ジュースを口にした。

 それから頭に思い浮かんだのは、今は存在しない元仲間たちの顔。

 ガナード、タイタス、そしてフェリオ。

 

「……落ちるところまで落ちたな」


 俺を追放した時のあいつらの顔。

 歪んだ自信に満ち溢れていた、あの頃だ。


 ――だが、今となっては誰もそんな表情はしていないだろう。

 聖剣は力を失い、リシャール第二王子が新たに救世主として立ち上がろうとしている。

 ……とはいえ、正直、あの人に全幅の信頼を寄せるのは――まだ早いと思う。


 そもそも、聖剣という存在自体を俺は危ぶんでいる。

 手にした人間を狂わせるアイテム。

 そんな風に思い始めていた。


 と、そこへ、


「眠れませんの?」


 寝間着姿のフラヴィアが俺のもとへとやってくる。


「灯りがついているからどうしたのかと思いまして」

「ああ……ちょっと、な」

「今回の詐欺事件の黒幕が、元仲間と知って落ち込んでいますの?」

「! ……聞こえていたのか」

「こう見えて聴力には自信がありますの」


 なぜか得意げなフラヴィア。

 きっと、俺を笑わせようとして、わざとあんな態度を取っているのだろう。


「大丈夫。落ち込んではいないよ」

「ですが……」

「落ち込んでいるっていうのはちょっと語弊があるな。……あいつら、もっときちんと鍛えればきっと強くなっただろうに、勿体ないことをしたなって」

「人間性を考えれば、なぜ彼らに聖なるアイテムが授けられたのか……まったくもって不可解ですわ」

「それは俺も感じている」


 ガナードの聖剣。

 タイタスのガントレット。

 フェリオの杖。


 これらはすべて、ベシデル枢機卿が中心となって行われた儀式にて、「神に選ばれたのだ!」と言って渡したものだ。

 そのベシデル枢機卿もいなくなったみたいだし、真相は闇の中ってわけだ。


「それで……次は例の魔法使いさんを追いますの?」

「……調査はしてみようと思う」


 タイタスの時はフィーユの件があった。

 今回は――俺自身とザイケルさんに関係がある。


「当然、このままというわけにはいかない」

「そうこなくてはいけませんわ」


 意外にも、フラヴィアは乗り気だった。

 

「ここはオーレンライト家の領地……そこで悪事を働くような輩がいるのなら、領主の娘として黙っているわけにはいきませんわ!」


 ああ、なるほど。

 そういうことか。


「そうだな。俺としても、このまま詐欺行為が横行すれば商売がやりづらくなる。ザイケルさんの件もあるし……やるか」

「ええ」


 俺とフラヴィアはコツンと拳を合わせた。

 そうと決まったら……明日から動きだすとするか。

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