第86話 疑念
ゆっくりと開け放たれた扉を、俺たちはジッと見つめていた。
ガナードたちが扉に入ってから、まだそれほど時間は経っていない。勝敗どころか、戦闘をしているような気配さえ感じなかった。
「戦う前に敗れたのかしら?」
フラヴィアが冗談半分にそんなことを言う。
さすがにそれはないと思うが……
「……うん?」
扉へ近づいた際、俺はある気配を感じ取った。
まるで、誰かに見られているような感覚。
その視線は扉の向こう側ではなく外部――この場所のどこかから感じられた。
「アルヴィン様?」
開け放たれた扉に目をくれず、周囲を見回している俺を不思議に思ったシェルニが声をかけてくる。
俺のそんな行動に対し、メンバーでいち早くピンときたのはやはりフラヴィアだった。
「わたくしも薄々そうではないかと思っていましたが……どうやらアルヴィンさんも同じ考えのようですわね」
そう言って、俺と同じように周囲を見渡し、何かを探し始める。
「な、何がどうなっているんだ?」
ドルーやスヴェンさん、さらにはシェルニも俺たちの行動の意図が読めないようだ。行動するので頭がいっぱいになり、詳細な情報を省いていたことに俺はここでようやく気づき、みんなに説明をしようとした時だった。
「この部屋は――偽の部屋ってことでしょ?」
いつもの調子を取り戻したレクシーが、小さく笑いながらそう言った。
「その通りだ――と、俺は思っている」
「アルヴィン様が言うなら間違いないです!」
シェルニは断言してくれるが、俺としてもこれはあくまでも経験論から語ったもの。それに、さっきから俺たちを遠くで眺めているような絡みつく視線……これも非常に厄介だし、不愉快だ。
恐らく、視線の持ち主は俺たちがあたふたしている状況をどこかから見ていて、それを楽しんでいるのだろう。
もしかしたら、ガナードたちが入った部屋には仕掛けがあって、今頃――
「……まあ、ガナードのことはいいか」
仮に、助けに行ったらまた悪態をついてくるだろうし、あっちにはレクシーと因縁があるハイゼルフォード家のリュドミーラがいる。こじれるのは目に見えているし、あれで一応、聖剣の持ち主なんだ。自力でなんとかするだろう。
それよりも今は正規ルート探しだ。
「どこかに道はないか……」
開いた扉を無視して、それほど広くない空間を六人で手分けして探していく。
すると、
「? これは……」
第一発見者はレクシーだった。
「アルヴィン、ここちょっと変よ」
「どれ……」
レクシーが示したのは足元の砂だった。その場に足を置き、少し力を込めると、柔らかいはずのそこに何か硬い物が埋まっている。
「少し掘ってみよう」
手分けして、周辺を掘っていくと、手のひらに収まるくらいの小さな箱が出てきた。どうやら宝箱のようだが……。
「これが……正規ルートを教えてくる鍵になるのか?」
とにかく、開けて中を確認してみる必要がある。
これは苦戦しそうだと思ったのだが、箱はあっさりと開いた。
そして――
ズゥン!
鳴り響く轟音。
見ると、さっきまでなかった階段が地中からせり上がり、壁にはこれまた先ほどまでなかった別の扉が出現していた。
「どうやら、あちらが正しい道のようですわね」
「まだ断言はできないが……」
とりあえず、あっちの扉を開けてみよう。
目の前にある扉からは、嫌な気配しか伝わってこない。
ガナードたちの姿も見えないし、トラップの可能性が高いと見ていい。
とりあえず、上に進むことにしたが――俺は違和感を覚えていた。
ルートどうこうの話ではなく、ここに至るまでの一連の流れについてだ。
あまりにも簡単すぎる。
魔界からやってきた魔王軍が、こちら側の世界を支配するために送り込んできたというには警戒度も低く、むしろ俺たちにここへたどり着いてほしいといわんばかりの警備態勢だ。
何か、別の企みがあるのでないか。
俺はそう勘繰った。
連中の狙いは未だ不透明。
この世界を支配しようという狙いは間違っていないと思うが……問題はその方法だ。
わざわざこんな城を建てて、仰々しく俺たちを出迎えたが、中身はほとんど空っぽ同然のハリボテ。その裏に隠された狙いは一体なんだ?
すべてを知るには、とにかく前進しかない。
そう腹をくくって、俺たちは階段を目指して歩き始めた。
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