第248話 エルフたちの事情

「君の活躍は私の耳にも入ってきているよ。まさか、御三家のオーレンライト家とレイネス家……ふたつの名家のご令嬢と懇意にしているとは、正直驚いたよ」

「そ、そんな……俺はキースさんみたいな商人になろうと思って頑張ってきただけで」

「しかし、君の持つ天性の営業スキルとその魔剣――そして、頼りになる仲間たち。それは私にはない、君だけの強みだ」

「キースさん……」

「これからも頑張ってくれたまえ」

「はい!」

 

 キースさんとの再会を喜び合った後、本題へと移った。


「それでは、エルフ族との商談について、話をしていきましょうか」


 俺の横へ腰かけたキースさんは、腕を組みながらベリオス様へと話しかける。その表情はさっきまでのにこやかなものではなく、キッと引き締まった一流商人のものだ。


 ベリオス様は、まず事の発端について語り始めた。


「この話が持ち込まれたのは今から二週間ほど前だ。ひとりの若いエルフ族の女性が、エルドゥーク王国騎士団のもとを訪れた」

「エルフ族の女性が?」

「彼女はあの森の出身ですかな?」

「ああ。森を守る自警団のひとりだと言っている」


 エルフの森の自警団……なるほど。自分たちの戦力をもっとも把握しているだろう者からのタレコミとあっては、騎士団としても放ってはおけないということか。


「彼女は魔族六将がこちらの世界へ進撃してきていることを知り、エルフの森の長老に人間との協力を申しでたそうだ」

「しかし、却下された――と」

「うむ……今、エルフの森では勢力を強めつつある魔王軍に怯え、仕事を放棄し、森から逃げ出す者も増えており、食料などの供給にも影響が出つつあるそうだ」


 キースさんの指摘に、ベリオス様は項垂れながら答える。

 その反応から、エルフ族が抱えている問題点がおぼろげながら見えてきた。


 エルフ族の中でも、勢力はふたつに分かれているようだ。

 エルドゥーク騎士団へ応援要請をしてきたという若い女性のエルフは、自分たちの力だけでは種族の防衛に限界を感じ、長らく関係を持っていなかった人間と協力体制をとろうと考えたらしい。


 だが、古くからしきたりを守り続けてきたエルフ族の老人たちは、それを頑なに拒否しているようだ。


「まずは信頼関係を回復するところから始めていきたいと思ってね。防衛策は騎士団の方でなんとかなるが、補給物資などの件は君たち商人の力を借りたい」

「そういうことでしたか」


 ベリオス様の話を聞いていたキースさんは頷きながら考えを巡らせているようだ。

 さすがは一流商人……俺なんて、何から手をつけていっていいか、まだ漠然とした案さえ浮かばないというのに。この辺に、証人としての実力差を感じるな。


 その時、ふとキースさんと目が合った。

 すると、


「アルヴィン。君のところのお店には、ワイルドエルフの子に精霊使い、魔人族までいるそうだな」

「え、えぇ」

「他種族が協力してひとつの店を経営している。君たちのそのスタイルは、他種族との関係を遮断し続けてきたエルフ族のお歴々にとっていい影響を与えるはずだ」

「はい!」


 それはつまり……俺たち全員でエルフの森へ向かうってことだ。

 視線をフラヴィアとシェルニに移すと、ふたりとも小さく頷いた。


 さて、これから忙しくなるぞ。

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