第102話 特別な存在
俺についていきたい。
ケーニルからの要求を素直に受け入れることは難しい。
何せ、相手は魔族だ。
ただ、明らかにケーニルは他の魔族とは違う。それは、彼女の全身から放たれる魔力の質から断言できる。彼女は魔族でありながら、人間寄りの魔力を持った魔族であった。
謎多き存在であることに変わりないが……もしかしたら、ケーニルと行動を共にすることで、何か魔族に関する新たな情報を得られるかもしれない。
そもそも、魔王軍との戦いにおいて、人間サイドは圧倒的に情報不足であった。
もっと言えば、魔族の生態についてほとんど知らないのである。
そういう意味では、人間の生活に興味を持っているケーニルは貴重な存在だ。
「どうしますの、アルヴィンさん」
「……まずは相談したい相手がいる」
「ザイケルさんですわね」
さすがはフラヴィア。
俺の考えはお見通しというわけか。
ケーニルをダビンクへ連れて帰るには、まずザイケルさんの許可を得る必要がある。さすがに今回は相手が魔族だから、すんなり了承はしてくれないだろう。それでも、俺はじっくりと腰を据えて交渉するつもりでいる。
「ですが、この子をダビンクへ連れていって大丈夫ですの?」
「暴れるとは思えないが……もしそうなった場合は、俺が全力で相手をする」
「その覚悟がおありなら、問題ないかと」
危険な賭けは百も承知だが、うまくいけば、今後の魔王軍との戦いに大きな好影響を与えられるはずだ。
「フラヴィア、馬車に毛布か何かないか? ケーニルの体を隠せるような」
「……もしかしたら、アルヴィンさんがその子をお店に連れていくと言いだすかもしれないと思って、全身を覆い隠せるくらいのローブを用意してありますわ」
「さすがだな」
どこまでこちらの言動を先読みしているんだ。
頼もしい限りだよ、ホント。
フラヴィアは一旦馬車へ戻り、持ってきたローブをケーニルへと渡した。
「ケーニル、俺のところへ来るのは構わないが、その前にクリアしなければいけない問題があるんだ」
「そうなの? だったら、アルヴィンに従うよ」
聞き分けがいいな。
素直というか……従順って感じだ。
こう言ってはなんだが、犬みたいな子だな。
ともかく、こちらの事情をケーニルへと話す。
「敵対している魔族の君を、俺たちの住んでいる町に入れるにはそこの責任者と話をしなければいけないんだ」
「責任者?」
「ザイケルさんっていう獣人族の人で、俺がよくお世話になっている人だよ」
俺はケーニルに、そのザイケルさんに紹介するが、肝心のザイケルさんにすぐ会えるかどうか分からないという説明をする――と、ケーニルからこのような提案がなされた。
「じゃあ、その人と会えるようになるまで、私はアルヴィンの住んでいる町から離れているよ」
「悪いな。その代わり、君がしばらく住む場所はこちらで用意するよ」
「分かった!」
ザイケルさんから許可が下りるまで、ケーニルには別の場所で生活をしてもらう。ザイケルさんを説得できたら、俺たちが暮らす店で一緒に生活をする。
とりあえず、これからの行動をシンプルにまとめるとこんな具合だ。
「住む場所ですが、ダビンク近くにある森にオーレンライト家が使っている別荘のひとつがありますわ。そこを提供しましょう」
「いいのか?」
「問題ありませんわ。……それに、不思議でしょうがないのですが、彼女はとても魔族とは思えませんの」
フラヴィアもそう思うか。
やっぱり、このケーニルって子は何か特別な気がする。
それも、一緒に生活をしていくことで何か分かるかもしれない。
「まずはその別荘へ行こう。それから、ケーニルが暮らしていけるように、うちから生活用品を持っていこう」
魔族と人間の生活様式がどこまで一緒なのか分からないが、人間との生活を望んでいる以上はそれなりに順応してもらわないとな。
さあ、これから忙しくなるぞ。
まずはこの事態をフラヴィアからサラッとしか説明を受けていないシェルニとレクシーを呼んで、詳細を伝えながら手伝ってもらうとしようか。
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