第84話 隠された真実

「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」


 俺がレクシーのもとへ行くと、彼女はずっと謝り倒していた。

 怯えたように震え、キョロキョロと辺りを見回しているが、その視線は誰とも合っていない。

 ただただ虚空に向かって謝罪を続けていた。

 まるで別人のような変貌ぶりだ。


 俺はそんなレクシーの肩を抱き、諭すように語る。


「大丈夫だ、レクシー。ここにいるみんなは君の味方だ」


 レクシーは俺を見つめ、脱力。全身から力が抜けて、へたり込んだまま動かないが、表情は随分と柔らかくなった。そして、


「……ごめん。取り乱してた」


 今度も謝罪だが、それは俺たちのよく知るレクシーの言葉だった。


「一体何があったんだ?」

「…………」


 しばらくの沈黙を挟んだ後、レクシーは自身の過去を語った。



 結論から言うと、レクシーはハイゼルフォード家の人間だった。

 ――が、それはもう何年も前の話だという。

 元々、ハイゼルフォード家はレクシーの父が当主を務めており、その父の弟がリュドミーラの父親――ややこしいが、つまりレクシーとリュドミーラは従妹同士の関係となる。

 幼い頃から何かと自分に対して対抗心を燃やしていたリュドミーラだが、今にして思えば、それは父親譲りなのだろうとレクシーは語る。

 リュドミーラの父――現ハイゼルフォード家の当主であるサイモン・ハイゼルフォードは、ずっと当主の座を狙っていた。

 しかし、ハイゼルフォード家のしきたりとして、当主を受け継ぐのは長男であるレクシーの父となっており、彼が死亡でもしない限り、サイモン・ハイゼルフォードが当主になることはない。


 だが、その「現当主の死」は現実のものとなってしまう。


 ある日、王都での用事を済ませた後、家族そろって帰路に就く途中、乗っていた馬車が暴走して谷底へと落下した。

 運良くレクシーは助かったものの、両親は亡くなっていた。その場で物言わなくなった両親に寄り添っていたが、しばらくすると複数の男たちが現れ、自分に向けて武器を構えた。

 殺されると直感したレクシーは命からがら逃げ伸びることができた。その後、今のままではまた命を狙われるかもしれない、と思い、ハイゼルフォードの名を捨てて生きていこうと誓って、現在に至る。


「「「「…………」」」」


 レクシーの壮絶な過去を知った俺たちは何も言えぬまま立ち尽くす。

 いつも明るくて、前向きだった彼女を知る俺たちからすると、衝撃的すぎてなんと声をかけるべきか。


 その時、フラヴィアがレクシーの肩に手を添える。


「わたくし……一度だけ、前当主の家族とお会いしたことがありましたの。その時に、一度会っていますわよね」

「…………」


 レクシーは無言のまま頷く。


「やっぱり……もしかして、と思いましたが……」


 そうか。

 フラヴィアがレクシーと初めて顔を合わせた時、何かに気づいたような素振りを見せていたが、それは子どもの頃にレクシーと会っていたからだったのか。


「あの時、あなたがとてもよくしてくれたことを、わたくしは覚えていますわ」

「フラヴィア……」


 フラヴィアとレクシーは抱き合う。

 

 ……しかし、話を聞いているとどうにも怪しい点がある。

 当主の座を狙っていたサイモン・ハイゼルフォード……そこへ偶然にも兄夫婦の事故死……フラヴィアの話では、そのサイモンはあまり評判のいい男ではないという。


 もしや――


「!?」


 俺がサイモン・ハイゼルフォードの企みを疑った直後、ガナードたちの入っていった扉の向こうから声がした。


 あれは……間違いなくガナードの声。

 俺は慌てて扉の方へと向き直る。すると、


「! 開いている……」


 確かにきちんと閉められた扉が、ちょっとだけ開いていた。

 まるで、「さあ、次はおまえたちの番だ」と誘うように。


「これは……覚悟を決めた方が良さそうだ」


 どうやら、砂塵のデザンタは――俺たちをご所望らしい。

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