第115話 まがい物

「ふん! 聖剣を授かった救世主もここまでよ! あんたたちじゃ絶対にレティル様には勝てないんだから!」

「あ、いや、俺たちは救世主パーティーじゃ――」

「とぼけても無駄よ! デザンタ様を救世主が倒したという情報はすでにキャッチしているんだから!」


 本当に誤解なんだが……とても信じてくれる流れじゃないな。

 というか、この子ひょっとして……ちょっとポンコツ?


「ふふふ、救世主よ……一歩遅かったな! すでにこの城はおまえたちの世界の大地を浸食し始めている!」

「えっ?」


 カンナが口走った言葉の意味。それはきっと、流砂で世界を呑み込もうとしたデザンタと同じことなのだろうと察した。


「こちら側の世界を……魔界の植物で埋め尽くすつもりか?」

「その通り!」


 自分たちの手の内をよくもまぁベラベラと……魔族六将が城の守りにつかせるくらいだから、ケーニルに匹敵する実力の持ち主なのだろうが、ちょっとこの子はケーニルとはベクトルの違った難がありそうだ。


 まあ、それはともかく、これで俺たちは急がなくてはならなくなった。

 よく周囲を見回せば、城を覆う植物たちはわずかだが動いている。それはきっと、地中深くまで根が移動している証しだ。


 デザンタの時は、ガナードたちがペットと戦っている間に俺たちはデザンタ本人と戦えたが、今回はちょっとパターンが異なる。深緑のレティルと戦うには、まずこのカンナをどうにかしないと。

 それに……植物の動きも気になるが、仲間であるシェルニとレクシーをこのまま放っておくわけにもいかない。


「ここはすぐにでもケリをつけて――」

「アルヴィン……この子の相手は私がするよ」

「えっ? ケーニル?」


 ケーニルは自らカンナと戦うことを申し出た。


「あなたひとりで大丈夫なんですの?」

「平気だよ。カンナと直接対決、私の方が勝率高いし」


 胸を張るケーニル。

 ……俺としては、勝敗以上に気になる点があった。

いくら険悪とはいえ、相手は元仲間――それも、つい最近まで。

 戦闘中に、再び魔王軍側につくかもしれない。

 そう悩んでいると、


「ここは私に任せて! きっとあのふたりだって、それを望んでいるはずだから!」

「…………分かった」


 ケーニルの晴れやかな笑顔を見て、俺は賭けることにした。彼女なら、この場を見事しのいでみせるはず。


「私がシェルニとレクシーを必ず連れていくから、アルヴィンたちは早くレティルを止めて!」

「おう!」

「シェルニさんとレクシーさんを頼みましたわ!」

「うん!」


 俺とフラヴィアはこの場をケーニルに任せることにした。

 今のケーニルは信頼できる。

 付き合いこそ短いし、そもそもこれまで関わってきたどの種族とも違う、天敵ともいえる魔族の少女。

 だけど、それでも、ケーニルは信じられる。

 他の魔族には感じられない「何か」が、そう確信させていた。


 ケーニル……この戦いが終わったら、詳しい彼女の経歴を聞いてみることにするか。


「あっ! 待ちなさい!」

「通さないよ、カンナ」

「! そこをどきなさい、ケーニル!」

「そういうわけにはいかないよ。――仲間を助けなくちゃ」


 上の階を目指して走りだした俺たちの背後から、そんなやりとりが聞こえる。

 直後、ケーニルの全身を覆う魔力が変化を始めた。


 これは……俺と戦った時に見せた魔力。

 ケーニルは本気だ。

 本気で、カンナと戦おうとしている。

 そして、それはカンナも感じ取っていた。


「ケーニル……結局、あなたは《まがい物》のままでしたわね」


 うん?

 まがい物? 

 ケーニルがまがい物って……どういう意味だ?


 とても気になる言葉だったが、立ち止まるわけにはいかない。

 せっかくケーニルがカンナを食い止めてくれているのだ。

 一秒だって無駄には出来ない。


「アルヴィンさん! あそこに階段がありますわ!」

「よし! いくぞ!」


 上の階に続く階段を発見し、俺たちはそこ目がけて走り続けた。

 深緑のレティルは、この上にいるのだろうか。

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