第303話 限界

「ぐぅ……そんな……ここへ来て拒絶反応なんて……」


 俺とガルガレムの連携攻撃により、大ダメージを受けたハリエッタ。

 しかし、今の苦しみはそれによるものだけではなさそうだ。


「な、何が起きた!?」


 この事態にガルガレムも驚いているようだが……俺だって同じだ。ハリエッタに何が起きているのか、皆目見当もつかない。

 ただひとつ分かることは――魔力の質の変化だ。

 ハリエッタはガナードと同じく人間としての魔力と魔人族としての魔力の両方を使いこなしていた。本来、これは相容れない存在なのだが、なぜか彼女はそのふたつを起用に使い分けていたのである。

 

 だが、今はそのバランスが大きく崩れていた。

 相容れないふたつがひとつの体の中に存在している――それだけで、相当危険な状態なのである。だから、そのバランスが崩れた今……拒絶反応が起き、ハリエッタはふたつの魔力に押しつぶされそうになっているのだ。


「あああああああああっ!」


 反応が一段と激しくなる。

 今の状態が続くのは非常にまずい。

 ガナードと同じように、ハリエッタは自我を失いつつある。


「どうする、アルヴィン!」

「……やるしかない」


 俺は魔剣に魔力を込める。


「き、斬るのか……?」


 戸惑いを見せながら問いかけてくるガルガレムに対し、俺は首を横に振ることでそれに答えた。


「斬るには斬るが……標的は彼女の魔力だ」

「何っ!? 魔力を斬るだと!?」


 ガルガレムが驚くのも無理はない。

 これから実行に移そうとしている俺自身、そんなの聞いたことがないんだからな。

 しかし、ハリエッタを救うにはこれしか方法がない。


 まともだった頃の様子から、彼女は何者かに洗脳されていた可能性が高い。つまり、あの時はまともじゃなかったかもしれないんだ。


 このまま何も知らずに消滅していくようなことはいけない。

 

 ――ただ、これはもう一か八かだ。

 何せ、魔力っていうハッキリと目には見えないものを斬るわけだからな。

 うまくいく保証なんてないが、手をこまねいて放置していてもいずれは……


「やるしかない」


 言い聞かせて、俺は魔剣を構える。

 そして、力強く地を蹴って、ハリエッタへと突っ込んでいった。


「あああああああああああああっ!!!!」


 すでに自我を失いかけているハリエッタ。

 俺は彼女の周囲に渦巻くふたつの魔力へ向けて、剣を向ける。目には見えない――ただ気配を頼りに斬った。


「っ!?」


 ハリエッタの叫び声が止まった。

 そして、ドサッという音とともに彼女はその場に倒れる。


「お、おい、大丈夫か!」


 慌てて駆け寄り、呼吸を確認して見ると――よかった。彼女はまだ生きている。混ざり合って暴走しかけていた魔力も、今は人間の持つ魔力の方しか感じない。どうやら、賭けは大成功だったみたいだ。


「見事な腕だな」


 ハリエッタの安否を確認し終えると、そこへガルガレムがやってくる。


「協力に感謝する」

「ふっ、人間にお礼を言われるのは初めてだが……悪い気はしないな」


 ガルガレムはそう言って小さく笑った。

 その仕草はまるで人間そのものだ。


「……ガルガレム。俺たちと来ないか?」

「おまえたちと?」

「例の第三勢力……すべての発端は連中なんじゃないか?」

「そこまで気づいたか」


 本来、ここではガルガレム率いる魔王軍とリシャール王子が率いる人間軍が戦っていたはず。そこへ、予期せぬ第三勢力の加入により、両軍は壊滅的なダメージを受けた。


 謎の第三勢力。

 ヤツらが、すべての黒幕――魔界と人間界の戦いを引き起こした元凶ではないのかと俺は睨んでいた。

 話を聞いたガルガレムの反応を見る限り、どうやらそれは正解らしい。

 

 果たして、その第三勢力の正体とは。

 そして、ガルガレムは俺の申し出を受け入れてくれるだろうか。

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