第47話 帰り道でトラブル
新ダンジョンの捜索一日目は正直なところ肩透かしの結果に終わってしまった。
まあ、まだ無理はできないし、あのカメ型のモンスターを倒した際、甲羅に生えていた薬草をいくつか入手できたので、今日のところの収穫はこれでよしとするか。
「それにしても……これまで潜ってきたダンジョンとは、少し様子が異なっていたな」
「そうなんですか?」
「吾輩もあの遺跡周辺以外には行ったことがないので分からないが、そこまで違う物なのかのぅ?」
「ああ……かなりな」
ダンジョンへ潜った経験がほとんどないふたりにとってはあまりピンときていなかったようだが……ちょっと異様だったな。だけど、その雰囲気は、何も悪いことだけってわけじゃない。
「いいダンジョンだったよ。……まあ、油断するとモンスターが襲いかかってくるという点は他のダンジョンと同じなんだけど、なんていうか、あまり殺伐とした感じがないっていうか」
「あ、それは私も分かります。みんな寝転がっている時とか、ホッとして安らげる感じがしました」
安らげる、か。
確かに、シェルニの言った表現はとてもしっくりとくる。いっそのこと、あの辺は観光スポットにしてもいいくらいじゃないかな。ただ、まだモンスターとの戦闘は一度きりだし、あの奥に何が眠っているのか、それなりのスパンで継続調査は必要になってくるのだろうけど。
今回はあくまでも先遣隊ということであのダンジョンへと潜った。
俺が報告をし終えれば、ザイケルさんが適切と思われる冒険者たちに声をかけ、報酬を出す代わりに調査を依頼するだろう。少なくとも、俺たちがいた周辺にはモンスター以外に目立ったトラップなどなかったし、腕の立つベテラン冒険者パーティーならば問題なく調査はできるはずだ。
俺たちがダンジョンを出ると、すでに夕暮れとなっていた。
「相変わらず、ダンジョン内にいると時間の感覚がなくなるなぁ」
「ですねぇ。まだまだ時間的に余裕はあるかと思っていましたけど」
「それだけ夢中になって調べたという証拠じゃ」
そんなことを話し合いながら、俺たちは帰路へと就く――はずだったが、
「――む?」
何か、声がしたような。
しかも、それほど遠くない距離だ。
「どうかしましたか、アルヴィン様」
「いや……こういう悪い予感っていうのは当たるものだからな」
「? なんの話じゃ?」
俺は聞こえた音について軽くふたりに説明した後、その方向へ向かって進み始めた。
「! あそこで誰かが襲われています!」
最初に見つけたのはシェルニだった。
案の定、誰かがトラブっているようだ。
接近してみると、十人ほどの武装した男たちが、馬車を襲撃しているようだ。向こうも護衛と思われる兵士たちが応戦しているが――襲っている側の方が優勢だ。
「最後尾の馬車へ回れ! お目当てはそこにいるぞ!」
リーダー格の男が、手下たちに指示を飛ばす。それにより、一番造りが豪華な馬車に男たちが集まってきた。周りで戦っている兵士たちはすでに虫の息……見たところ、決して弱いというわけではないが、襲ってきた男たちの方が上手だったか。
「アルヴィン殿!」
「アルヴィン様!」
「……いくか」
このまま放っておくわけにはいかない。
事情はどうあれ、兵士たちに重傷を負わせているあの男たちを野放しにしておくのは危険だ。
意を決して、俺たちは男たちに声をかける。
「ちょっと待ったぁ!」
「あん? なんだ、おまえたちは」
威勢よく叫ぶドルー。
喋るリザードマンの登場に、男たちは動揺――が、それも一瞬のことで、すぐに武器を取って臨戦態勢へと移る。……こいつら、手慣れているな。身なりは山賊っぽいが、その実態はこの手の仕事を生業とする傭兵か?
「痛い目を見ないうちに失せな。下手な正義感を振り回しても損しかしねぇぞ?」
諭すような口調で、リーダー格の男が言う。当然、そのくらいで「分かりました」と言って引っ込むくらいなら、最初から飛び出したりはしない。
「むしろ俺としてはあんたたちに引っ込んでもらいたいんだが……」
「ああ?」
リーダー格の男が、手にしていた巨大な斧を振り上げ、地面に突き刺す。その衝撃により、近くの木々で羽を休めていた鳥たちが一斉にと飛び立った。深手を負った周りの兵士たちも、男の規格外のパワーを身に染みて理解しているので、俺たちへ「すぐに逃げるんだ……」となんとか捻りだした小さな声で告げた。
その忠告はありがたいが、そういうわけにもいかない。
「聞こえなかったか?」
「それはこっちのセリフでもあるな」
どちらも引かず、交渉は平行線。
もともと成立するなんて思っちゃいないが……こうなったら力ずくで退場してもらうしかないな。
「シェルニ、ドルー」
俺の呼びかけに、ふたりは武器を構えることで応えた。
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