第48話 思わぬ戦闘

ダンジョンからの帰路で思わぬ場面に居合わせることとなった俺たちは、人助けのため山賊行為を働く男たちと戦うことになった。


「おらぁ!」


 リーダー格の大男は力任せに斧を振るった。


 ブン、という風を切る音が耳に残る――が、俺たちはこの一撃を難なく回避する。確かに、今の一撃をまともに食らったら無事では済まない。だが、それはあくまでも「当たったら」の話。今みたいに、あんな大きな動作をされたら、避けない方がおかしい。


 もちろん、ただ避けるだけじゃない。

 俺は魔剣に魔力を込める。

 すると、途端に剣は炎に包まれた。


「こいつでどうだ」


 軽く剣を振ると、剣にまとっていた炎が一本の矢のように鋭く伸びて大男へと襲い掛かる。


「熱っ!?」


 男は直前で回避行動を取ったが、間に合わず。服に炎が燃え移り、その熱さで悶え苦しんでいた。


「そんなに熱いなら冷やしてやるよ」


 今度は魔力の「質」を変える。

 炎で熱くなった体を冷やしてやろうと、男の足元だけを氷で固めて動けなくした。


「な、なんだってんだ!?」

「か、頭!」

「おまえら! とっとと助けねぇか!」


 リーダー格の大男が叫ぶと、周りにいた手下たちが弓を構えた。

遠距離からの攻撃か……いい選択肢だと思うが――相手が悪かったな。距離を取った攻撃でも、こちらには防御策がある。


「死ねや!」


 放たれた矢が、俺目がけて飛んでくる。

 だが、それらが俺の体を貫くには至らない。なぜなら、こっちには防御魔法のスペシャリストがいるからな。


 男たちの放った矢は、俺から一メートルほど手前ですべて弾き返される。遠くにいるヤツらから見たら、目に見えない壁に阻まれたように映るだろう。


「なっ!?」

「どういうことだ!?」


 動揺する男たち。

 もちろん、俺を守ったのはシェルニの防御魔法だ。

 呆気にとられ、隙だらけのとなっている男たちのもとへ、リザードマンのドルーが突っ込んでいく。


「ふん!!!!」


 その剛腕から放たれた一撃で男たちを吹き飛ばしていく。


「吾輩、人間には憧れているが――お主たちは人に値せぬ下衆じゃ」


 主を守るために戦い、そして倒れていった兵士たちを見回しながら、ドルーは静かな怒りを浮かべて男たちと対峙する。その気持ちは俺もまったく同じだ。


「まだやるかい?」

「ぐっ……!?」


 自由に動けるようになったリーダー格の男は、俺が構えている剣を見て一瞬目を丸くした。


「て、てめぇが持つその剣……まさか、あの伝説の聖騎士ロッドを師に持つという――」

「うん? 師匠を知っているのか?」

「!? や、やっぱり!? ここ最近、とんでもねぇ戦果を挙げているっていう魔剣使いの商人か!?」


 えっ?

 そんな噂になっているのか?

 でもまあ、そこまで知っているというなら話は早い。


「俺がその魔剣使いの商人だ。これ以上痛い目を見たくなければ失せろ」


 なんだかこっちが悪党みたいな言い方だが、相手を考えたら、それくらい威圧した方がちょうどいいくらいか。その効果があったかどうかは定かではないが、結局、男たちはそそくさとその場を逃げ出した――が、このまま見逃すわけもなく。


「シェルニ」

「分かっていますよ、アルヴィン様!」


 シェルニの拘束魔法で、逃げだそうとした者たち全員の動きを封じ込める。身動きが取れなくなった男たちは観念したのか、その場にへたり込んでしまった。


「ドルー、悪いけど、ザイケルさんを呼んできてくれないか? たぶん、まだ北区の整備に出ているはずだ。そこにいなければ、ギルドまで行って、リサに居場所を聞いて連れてきてほしい」

「心得たぞ」


 ドルーは俺からの指示を受けてダビンクの町へと戻っていく。

 さて、残った俺とシェルニは――襲われていた張本人とご対面といこうか。

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