第107話 救出
「なんだ、こりゃ……」
わずか数分の間に、森はその姿をガラリと変えていた。
ていうか……なんなんだよ、これ。
ここまで来るともう密林って感じだ。見たことのない花が咲き乱れているし……って、なんかあの植物、動いていないか? まさかモンスター?
「旦那ぁ!」
変わり果てた森を眺めているとネモが俺の名を叫びながらこちらに駆け寄ってくる。
「どうかしたか?」
「そ、それが、ダンジョン内部でさらなる崩落が起きて……」
「!?」
それはつまり、ダンジョンの奥へと進んだザイケルさんたちの状況が危うくなっていることを示していた。
「大岩が道を塞いで、なかなか前進ができず……」
「分かった! すぐに行く! レクシー! ついて来てくれ!」
「了解!」
「わたくしたちも行きますわ!」
「いや、ふたりはここに残ってくれ! 状況がさらに悪化したら、王国騎士団を連れてきてほしい! それと、無事に戻って来られた時は、シェルニの回復魔法が不可欠になる。準備をしておいてくれ!」
「はい!」
御三家令嬢であるフラヴィアが要請を出せば、騎士団としても動かないわけにはいかないだろうし、今やうちには欠かせない回復のスペシャリストであるシェルニに何かあっては何かあった時に対応し切れないからな。
仲間へ指示を出し終えると、俺たちはダンジョンへと急いだ。
ダンジョンに巻きつくような格好になっている例の植物の根は今も成長を続けていた。地中を這うその姿は、まるで巨大な蛇だ。
「旦那! あそこです!」
案内役のネモが指差す方向には、多くの冒険者が集まっていた。
皆、ザイケルさんたちを救いに行きたいが、崩落した巨岩が行く手を阻み、足踏み状態となっている。
「よし。みんな少し離れていてくれ」
俺は集まっている冒険者たちに一旦退くよう伝え、周りに誰もいないことを確認してから魔剣を振るう。すると、巨岩は粉々に砕け散り、奥へと続く道ができた。
「ザイケルさん! 今行きますよ!」
ネモが先頭に立って、冒険者たちと共に奥へと進む。彼らはもちろんザイケルさんを心配しているが、中には自分のパーティーの仲間が同行し、そちらの安否を気遣う者も何人かいた。
「私たちも行きましょう、アルヴィン」
「ああ……」
駆けだしたレクシーの背中を眺めながら、俺は巨大な根に手を添えた。
「これは……」
間違いない。
この植物の根には――魔力が通っている。
こいつはただの植物じゃない。
もしかして……魔界に自生する植物、とか?
「調べてみる必要がありそうだな」
巨大な根の正体を探る必要がある。
そう考えていると、
「ザイケルさん!」
奥からネモの声。
どうやら、ザイケルさんたちを発見したようだが――その声色からして、無事というわけではなさそうだ。
「ネモ! ザイケルさんは!?」
「だ、旦那! そ、それが……」
声を震わせるネモの前方に、ザイケルさんが倒れていた。
額から出血し、全身の至るところに傷ができている。意識はないようだが、呼吸はしている――助かるぞ。
他の冒険者たちも、怪我はしているが死者はいないようだ。中には意識がハッキリしている者もいる。
「と、とりあえず、ダンジョンの外へ……」
「待て、ネモ。下手に動かすと危険だ。シェルニを呼んでくるから、完全に回復してからひとりずつ運びだそう」
「でも、アルヴィン……また崩落したら……」
「安心しろ。その時は魔剣の力でまた浮かせる」
「じゃ、じゃあ、私がシェルニを呼んでくるわ」
「ああ、任せた」
俺は崩落が起きてもすぐに対応できるよう、その場に残った。
「だ、旦那ぁ……ザイケルさんは……」
「大丈夫。あの人は簡単に死にはしない。問題は――」
俺は天井を見上げる。
そこには、先ほどよりも数を増やした木の根がうごめいていた。
「一体……何が起きているんだ……」
正体不明の植物による襲撃。
俺たちはまだ、その危険性を十分に把握できていなかった。
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