第181話 魔剣に誓う

 砂漠で育った野菜に、オアシスを利用して作った酒。

 これまでにない、新しい食文化に興味津々の俺たちは、夜遅くまで盛り上がった。



 そして、次の日。


 まだ辺りは薄暗いが、妙に目が覚めてしまった俺は魔剣を手にすると、みんなを起こさないように気をつけながら外へ出た。


「ふぅ……」


ひと息ついて、俺は魔剣に魔力を込める。


「!?」


 その反動に驚き、すぐさま魔力供給を遮断。

 デザートボアとの戦い……あの時は、あそこまで魔力が増幅するなんてまったくの想定外だった。しかし、その想定外のせいで、俺は危うく、みんなを危険に晒すところでもあった。


「……こいつを完璧に制御して戦うには、まだまだ修業が必要だな」


 思い返せば、以前の魔剣を完璧にコントロールできるようになってから、きちんとした修業はしてこなかった。基礎体力トレーニングなどは欠かさなかったが、魔力を操作するなんて、やってこなかったものな。


「いい機会かもしれないな」


 魔剣使いとしての自分を見つめ直す。

 もしかしたら、メアリーさんはそこまで見越して、この魔剣を……?


「……あの人ならやりかねないな」


 何せ、師匠の奥さんだからなぁ。

 ともかく、前より強力になったのは間違いないんだ。

 あとは使う側である俺の力量次第。


「みんなのためにも、頑張らないとな」


 朝焼けの中、俺は空に魔剣をかざし、そう心に誓うのだった。




 朝の鍛錬を終えて朝食を済ませると、俺たちは帰り支度を始めた。

 今回、砂漠でのさまざまな製品について、本格的に商品化へ取り組みたいというスヴェンさんとドルーは、俺の店とギルドへの販売に向けて村の人たちと話し合いの場を持ちたいということで、早速今日から向かうようだ。


 それが整い次第、改めて納品してくれるのだという。


「それまでに、俺の方でも正式な契約書を用意しておくよ」

「分かった!」


 俺とスヴェンさんは固い握手を交わし、それぞれの道を歩み始める。

 この砂漠で作られた商品の数々がうちへ並ぶのも、そう遠くないだろうな。


  ◇◇◇


 数日後。


 村人たちとの話し合いを終えたスヴェンさんが店にやって来た。

 その足で、俺は彼をギルドのオーナーであるザイケルさんに紹介。

 ザイケルさんは砂漠で作られた商品の数々に驚きつつも、その味を絶賛。早速、ギルドで取り扱われることになった。


 一方、俺の店でも、野菜や酒の販売を開始。

 以前から売られているラヴェリジュースと合わせて、非常に高い人気を博し、連日大盛況となった。


「うぅ……こんなにたくさんの人に買ってもらえるなんて……」


 売れ行きを知ったスヴェンさんは泣いて大喜び。

 村にとっても、新しい仕事が増えたとヤル気になっているみたいだった。


 店頭でケーニルと共に元気よく通りかかりの人たちに野菜や酒をアピールしているスヴェンさんを、俺は店のカウンターから眺めていた。


 ――と、その時、店内で武器を選んでいた冒険者のバッグから一枚の紙が滑り落ちた。


「落としましたよ」

「おぉ! すまない」


 俺はそれを手に取って、冒険者に変えそうとした――が、


「? どうかしたかい、店主」

「い、いえ、なんでもありません」


 一瞬、俺は動きが止まってしまった。

 原因は――さっきの紙だ。

 あれは新聞だった。

 その見出しが、あまりにもショッキングだったので、ちょっと驚いてしまった。



 ――新聞の見出しはこのように書かれていた。


《救世主パーティー、解散か?》


 と。

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