第182話 気分転換

 砂漠の野菜や酒は売れ行き好調だった。

 うちの店だけじゃなく、ギルド内でも評判を呼び、売り切れ続出という状態らしい。

 その報告を受けたスヴェンさんにドルー、そして砂漠の村の人々は一層仕事に邁進していくようになっていった。

 うん。

 いい相乗効果だ。




 その日、俺は店番をしながら、新聞に目を通す。

《救世主パーティー、解散か?》――という、衝撃的な見出しの記事が出てから二週間ほど経つが、未だに続報はない。国からもそういったお達しがないため、やはりあれは飛ばしの記事だったのかな。

よく読んでみると、記事の内容は憶測ばかりで、情報元も「ある関係者」とぼかしていたし……まあ、こういったゴシップ関係での盛り上がりは、どの世界でも変わらないということか。


「アルヴィンさん」


 そこへ、フラヴィアがやってくる。


「気になりますか、救世主パーティーが」

「……まあ、ちょっとだけね」


 とは言ってみたが、フラヴィアにはそれが嘘とお見通しのようだ。

 

「……差し出がましいようですが、あまり思いつめては――」

「…………」


 俺は無言のまま立ち上がる。

 そう行為が、「怒らせてしまった」と思ったフラヴィアはキュッと目をつむった。


「心配してくれてありがとう、フラヴィア」

「!」


 フラヴィアの肩へそっと手を添える。

 すると、フラヴィアはその手に自分の手を重ねた。


「今のあなたには、わたくしたちがいますわ」

「そうだな。ガナードたちより百倍――いや、千倍は頼りになるよ」

 

 これはお世辞でもなんでもない。本心からそう思っている。

 すると、


「「たっだいま~!!」」


 ダンジョンへ潜り、アイテム調達をしに行っていたレクシーとケーニルが帰って来た。あのテンションを見る限り、どうやら大成功だったようだな。


「おかえりなさい、ふたりとも」

「その様子だと収穫アリって感じだな」

「当然よ!」

「見て見て~」


 楽しそうに戦果報告をするふたり。

 俺とフラヴィアがその話に聞き入っていると、


「ねぇ、アルヴィン」

「うん? なんだ、レクシー」

「たまにはあなたもダンジョンに潜ってみない?」


 その提案に、フラヴィアが乗っかった。


「いいですわね。買い出しに行っているシェルニさんとザラさんも一緒に、みんなでダンジョンに潜りましょう」


 そんなピクニック気分で……まあ、楽しそうではあるし、俺自身も久しぶりに体を動かしたいという欲求はあった。

 問題は――まだ新しい魔剣を完璧に使いこなせていない点。

 多少、力をセーブしてコントロールすることは可能になったが、以前のように自由自在とまではいかない。


 とはいえ、そろそろ実戦での効果を知りたいし……気分転換にもなるだろうな。フラヴィアがちょっとわざとらしく賛同したのはそのためでもあるだろうし、きっとレクシーがそう持ちかけたのだって、最近の俺の動きを気にしてくれていたからだろう。


「……よし。それじゃあ、明日は店を休みにして、久しぶりにダンジョンへ潜るとするかな」


 俺がそう言うと、三人のテンションが上がった。




 その後、買い出しから戻って来たシェルニとザラにも明日のことを伝える。

 すると、ふたりも他の三人と同様――いや、それ以上に大喜び。


「お弁当の準備をしますね!」

「私も手伝います、シェルニさん!」


 やはり、ピクニック感が出ていた。


 まあ、今の俺たちならこの近辺に出るモンスターくらい訳なく討伐できるだろうから、それくらいリラックスしても大丈夫だろう。

 もちろん、だからといって油断のしすぎには要注意。


 その辺のさじ加減は難しいところだが……とりあえず、楽しみにしておくとしよう。

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