第124話 束の間の平穏

 植物の城が炎上し、消滅してから一週間が経った。



 魔王軍が人間界へ送った六将のうち、デザンタとレティルのふたりを打ち破った(うちひとり分はガナードが倒したことになっているけど)俺だが、それ以後の生活に変わったところは見られない。


 しいて変わった点を挙げるなら、


「これをいただきたいのだが」

「分かりましたわ」


 御三家令嬢であるフラヴィアが、すっかりうちに馴染んだことか。

 いや、まあ、これまでも割と違和感なく過ごしてはいたけど、店員としての態度も板についてきたというか……大貴族の令嬢がそれでいいのかって気がしないでもないけど、本人は社会性を養えるとヤル気だし、父親であり、オーレンライト家の現当主でもあるベリオス様からは直筆の手紙をいただき、そこにも「娘をよろしく頼む」と書かれていた。当主がいいというならいいのか――な?


 あと、負傷していたザイケルさんが職務に復帰した。娘でギルドの受付嬢をしているリサは泣いて喜んでいたが、ザイケルさん本人は「あのくらいの怪我で死ぬかよ」と笑いとばしていたな。


 そういったわけで、今日も植物の城に乗っ取られかけたあのダンジョンでは、賑やかにルートの検証が行われている。うちからも、シェルニとレクシーが朝からお弁当を持って出かけていった。


 なので、店には俺とフラヴィア、そして――


「ケーニルちゃん、この薬草を五つくれ」

「はーい♪」


 今やすっかり看板娘として定着した魔人族ケーニルの三人だ。


 ケーニルについては、想定していたよりもすんなり馴染めていた。

 まず、ザイケルさんに報告をしたが、魔人族ということでさすがに警戒していた。しかし、彼女がレティルの部下で同族でもある有翼魔人族カンナと死闘を繰り広げたり、人間側の味方に立って六将撃退に尽力してくれたことを告げると、「そういうことなら」と首を縦に振ってくれた。

 もちろん、俺がケーニルの言動をしっかりと監視するという条件付きだが。

 その点については、俺も気を抜くつもりはない。

 ……とはいっても、その心配はなさそうなくらい溶け込んでいるけどな。見た目のインパクトが強いので、初見の人には説明をしなくちゃいけないけど。


 そうそう。

 ケーニルを匿ってくれていた別荘管理人のエリンさんにも、改めてお礼を言いに行かなくちゃな。


 レジ横のイスに腰かけながら、そんなことを思い出していると、


「よぉ、繁盛しているじゃないか」


 店に珍しい来客が。


「! ディンゴさん!」


 以前、大変世話になった宿屋の店主ディンゴさんだった。


「商人としての才覚はあると思っていたが、魔剣使いの剣士としても一流だったとは……恐れ入ったよ」

「そんな……俺なんて、まだまだですよ」

「謙遜するなよ。魔族六将を倒せるほどの実力を秘めた剣士なんてそうはいないぞ」

 

 ディンゴさんに真顔でそんなことを言われるとさすがに照れるな。


「それで、今日は何か探し物が?」

「いや、おまえに知らせておきたいことがあってな」


 知らせておきたいこと?

 なんだろう?


「実は、昨日うちの宿屋に泊まった客が――おまえとシェルニを捜していた」

「えっ?」


 俺とシェルニを?

 ……妙だな。

 百歩譲って、俺を捜しているというなら話は分かる。だが、なぜそこにシェルニがくっついてくるのだろうか。仮に、魔族六将絡みならば、フラヴィアやレクシーの名前も出てくるはず。


 つまり、そいつの目的は俺よりもシェルニの方にある可能性が高いと見てよさそうだ。


「おまえの知り合いって感じでもなさそうだったから、知らんと答えたが」

「……その客は今どこに?」

「ダンジョンへ行くと言っていた。ほら、最近見つかった、魔族六将に乗っ取られそうになったところだ」

「ダンジョン!?」


 まずいな。

 今、シェルニはザイケルさんの手伝いでそのダンジョンにレクシーといる。このままだと鉢合わせてしまうかもしれない。


「フラヴィア、ケーニル、少し出てくる。店番を頼んだぞ」

「了解ですわ」

「任せて!」


 ふたりにそう伝えて、俺は店を出た。


 シェルニを捜す人物――もしかしたら、シェルニの過去を知っている者かもしれない。

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