第125話 シェルニを知る者

 シェルニを捜す謎の人物。

 その正体を追って、俺はダンジョンを目指していた。


 思い返せば――シェルニの過去を知るために、ダビンク北区を根城としていた悪党たちを討伐。それから、首謀者である元王宮魔法使いの男を拘束したが……ヤツは何者かにかけられた呪いにより死亡した。


 結局、有力な手掛かりを掴めぬままとなってしまったが……もしかしたら、その人物が何か知っているかもしれない。


 ただ、問題はその人物がどんな目的でシェルニを捜しているかという点。


 もし、シェルニを敵視している、或いは、何者かの依頼を受けた暗殺者の類であるとするならば、そいつをシェルニに会わせるわけにはいかない。


 レクシーやザイケルさんもいるだろうから大丈夫とは思うが……なんだか嫌な予感がするな。


 大急ぎでダンジョンへと向かう。

 道中、これといったトラブルもなく到着すると、


「あれ? アルヴィン様? どうかしたんですか?」


 慌てた様子の俺を見て、シェルニが不思議そうに尋ねる。


「シェルニ……無事か?」

「へっ? は、はい。無事です」

「強力なモンスターが出てきたわけでもないのに、ちょっと過保護すぎるんじゃない?」


 呆れたように言ったのは同行しているレクシーだった。


「ああ、いや、実は――」


 念のため、ザイケルさんも交えてから、俺はこの場に来た理由を説明した。


「私を捜している人……」


 記憶のないシェルニにとって、素性を知る絶好の機会。だが、逆に言うと、何も分からないからこその危険性もある。なぜなら、俺たちからするとその人物の情報の真偽を知る手段がないからだ。


「き、気になるわね……」

「あ、ああ……」


 レクシーとザイケルさんはその人物のことが――というか、シェルニの過去について関心があるようだ。

 ――ていうか、俺だってそうだ。

 シェルニは今のメンバーの中でもっとも古い付き合い。俺が救世主パーティーを抜けてから最初に加わった仲間だ。当初はなかなか心を開いてくれなかったが、今ではすっかりうちでも一、二を争うおしゃべり好きになっている。

 拉致された過去から、人と接することへ恐怖心があったりもしたが、今では厳つい顔をした歴戦の冒険者とだって和やかに話ができるまでに社交的となった。


 そんなシェルニの過去……興味が湧かないはずがない。


 ただ、問題はシェルニ自身の気持ちだ。

 それが何よりも優先されなければならない。


「私は……」


 言い淀むシェルニ。

 その複雑な表情――心の中で葛藤が繰り広げられていることが透けて見える。

 本心としては、きっとシェルニ自身も、自分がどこの何者なのか知りたいと思っているに違いない。だが、知ってしまった結果、俺たちとの関係に影響が出ることを恐れている――そんなところか。


「……シェルニ。仮に君が何者であったとしても、俺たちが君への態度を変えることはない。これだけは断言しておくよ」

「アルヴィンの言う通りよ。シェルニはシェルニだもの……私たちの大切な仲間であることに変わりはないな」

「アルヴィン様……レクシーさん……」


 シェルニの瞳が潤む。

 俺とレクシーの言葉に、感情を抑え込むことができなくなったようだ。

 しばらくして、落ち着きを取り戻したシェルニはキュッと唇を結び、先ほどまでとは違う力強い眼差しで俺たちに告げた。


「私……知りたいです。自分が何者なのか」


 どうやら覚悟を決めたようだ。


「うむ。ではそのシェルニを捜していたという人物を、今度はこっちから捜しだしてやらないとな」


 パンパンと手を叩きながら、ザイケルさんが言う。

 

「しかし、ディンゴさんの話だと、このダンジョンへ向かったはずなんですが……途中でそれらしい人にはすれ違わなかったんですよね」

「何? そうなのか?」

「北区の門を出たら、ここまで一本道じゃない。迷う要素なんてあるかしら?」


 俺たちは唸りながらも、シェルニの過去を知る人物を捜索するため、周囲の冒険者たちにも声をかけて捜す範囲を広げることにした。


 果たして、その人物は何を語るのか……。

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