第126話 捜査網
シェルニを捜しているという人物を、今度は俺たちが捜すという変な展開になってしまった。
とはいえ、これはシェルニの過去を知る大切なこと。
ディンゴさんの話を聞く限りでは、荒っぽいマネで迫るようなことはなさそうだが……ともかく、油断は禁物。気を引き締めていこう。
「――って、思ったんだけどなぁ」
その人物の捜索は難航した。
……まあ、難航も何も、こちらとしてはダンジョンへ向かったという情報が空振りに終わった時点でお手上げ状態。手掛かりはなくなってしまったわけだからしょうがないんだけど。
「どこにもいないわね……」
「ああ……一体どこに消えたんだ?」
現在、俺はレクシーと共にダンジョン周辺を捜しまわっていた。ディンゴさんにこちらへ向かうと言い残したその人物だが……俺はひとつの仮説を立てていた。
ちなみに、シェルニは何かあるといけないのでザイケルさんと冒険者たちに預けてきている。
「……なあ、レクシー」
「何?」
「シェルニが以前、奴隷商たちに追われているという話はしたよな?」
「ええ。覚えているわ」
一応、フラヴィアとレクシーには俺が知っている範囲で、シェルニの過去を教えてはある。もちろん、ふたりともシェルニが元奴隷であることを知っても態度を変えることはなかった。フラヴィアにいたっては、以前よりも甘やかしているというか、可愛がりすぎている節があるけど。
「もしかしたら……シェルニを捜している人物というのは、奴隷商たちによる組織の生き残りかもしれない」
「えっ? で、でも、北区を根城にしていた首謀者はあなたが倒したんでしょ?」
「そうだけど……そいつもまた誰かの命令で動いていたようなんだ」
俺が捕まえた奴隷商のリーダー――元王宮魔法使いのマーデン・ロデルトンは、王国騎士団へ身柄を引き渡す前に死亡した。だが、それは何者かによって仕組まれていた死だった。
それを仕組んだ者が元締めだろう。
……俺の立てた仮説というのは、シェルニを捜している者が、この元締めの使いではないかということ。それをレクシーに伝えると、
「……なくはないわね」
険しい顔つきで同意された。
「私たちの可愛いシェルニをまだ付け狙うなんて……許せないわ」
怒り心頭のレクシー。
そして、さりげなく発せられる「私たちのシェルニ」というセリフ。まあ、大切に思っているというのは十分伝わったので、そこにはあえてツッコミを入れないでおこう。
結局、その後も周辺を捜し回ったが、それらしい人物を見つけることはできなかった。
◇◇◇
「まあ……そうでしたの」
帰宅後。
夕食の準備を整え、みんなで食卓を囲む際、フラヴィアとケーニルに今日の出来事を報告。
……って、俺が言うのもなんだけど、フラヴィアはすっかりうちに馴染んだな。今日も近所の服屋で買ってきたというエプロンをつけて台所に立っていたし。さすがに料理はできないようなので、基本的にお手伝いどまり(スープに使う野菜の皮むきなど)なのだが、本人としてはいずれ本格的に料理を習いたいと意欲満々だ。
――話を戻そう。
「一応、明日はこの町で聞き込みをしようと思っている」
「分かりました。お店の方は心配いただかなくても、私たちだけでなんとか対応できますから、ご安心を。――ね? ケーニルさん?」
「うん! 私たちにお任せ!」
「ははは、頼もしい限りだな」
フラヴィアだけじゃなく、ケーニルも短期間のうちにだいぶ馴染んだな。
「ザイケルさんも、ギルドにチラシを貼ったりして呼びかけてくれるらしいから、きっとすぐに見つかるわよ、シェルニ」
「はい♪」
レクシーに声をかけられて、シェルニは笑顔で答える。
うんうん。
いい雰囲気だ。
しばらくは魔族たちも大人しくしているだろうし、今はシェルニの情報を集めることに集中しよう。
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