第147話 レイネス領地へ

 エルドゥーク王国御三家の一角――レイネス家。

 そのレイネス家の領地はその大半が山岳地帯だった。

 産業の大半を占めるのはその山で行われる魔鉱石の採掘――いわば鉱山業だ。


「見渡す限り山ばかりですね」

「ストレー山脈だな。大陸一の高さを誇るガンディア山をはじめ、あの一帯は標高の高い山ばかりなんだ。別名、《神の宿》とも言われているくらいだよ」

 

 俺の解説に、シェルニは「ふむふむ」と瞳を輝かせながら聞き入る。

 引っ込み思案で人見知りだった頃は遠い昔のこと。

 今のシェルニは好奇心旺盛な活発女子となっていた。

 ローグスク国王の話では、昔はもっとひどかったらしいけど……まあ、俺たちといたことでそれが改善されているのなら、俺としても嬉しい。


「うーん……高所の澄んだ空気っていうのはいつ吸ってもおいしいねぇ」

「空気の良し悪しは今ひとつ分かりませんが、気分がいいのは確かですわね」

「うん! 気持ちいいもんね!」


 荷台で談笑する三人も、レイネス家の領地を気に入ったようだ。

 途中、見晴らしのいい高台に着いたので、そこで昼食をとりがてら休憩を挟む。それからすぐに再出発し、当初の目的地だるレオルの街が見えたのは夕暮れ直前の頃だった。


「あそこに見えるのがレオルという、レイネス領地で最大の街だ」

「かなり大きい街ですわよ。まあ、ダビンクには勝てませんが」


 フラヴィアにとって、オーレンライト家の領内にあるダビンクとどうしても比較してしまうのだろう。ただ、確かにレオルはダビンクに比べれば小さい。というのも、この辺には鉱山がある代わりにダンジョンがないから、必然、冒険者が集まらず、宿屋やアイテム屋というジャンルの店はその数自体が少ない。


 とはいえ、国家視点から見ると、先ほども言った鉱山が占める重要性はダビンク周辺に存在するダンジョンよりも高いと言える。

 冒険者はいないが、この地で生まれ、鉱山で働く者、或いは、他の地方から一時的に移住してきている出稼ぎ労働者もいて、彼らも含めたら人口自体はこちらの方が多いのかもしれない。


 そのため、街としての規模は小さいながらも、活気という面ではダビンクに劣ってはいなかった。

 特に、今の時間帯は鉱山での仕事を終えて戻って来た鉱夫たちが街に溢れており、家に帰る者もいれば、これから店によってひと盛り上がりをしようと話し合っている者などがチラチラ見受けられる。

 馬車を預け、街の中を歩く俺たちはその活気に気圧されていた。

 ちなみに、混乱を避けるため、フラヴィアとケーニルには念のためフード付きのローブを着てもらい、顔を隠している。


「と、とても賑やかな街ですね」

「そうだな。人も多いし、みんなはぐれないように」

「はーい♪」


 一番元気よく返事をしたケーニル――と、突然その手が俺の腕に絡みつく。


「! ケ、ケーニル? どうした?」

「こうした方がはぐれなくて済むかなぁって思って」


 確かにそうかもしれないが……。

 と、


「名案ですわね、ケーニルさん。では、わたくしは反対側を」

「あっ! じゃ、じゃあ、私は背中で!」

「え、えっと……わ、私は正面から!」


 なぜか四方をガッチリと固められてしまった。

 これなら間違いなく迷子にならないのだろうが……大きな欠点がある。


「な、なあ、みんな……」

「なぁに?」

「なんですの?」

「何?」

「なんですか?」

「動けないんだが……」


 こうも引っ付かれると足を前に出すことさえ叶わない。

 それに気づいた四人はパッと俺から離れ、猛省。

 ……悪い気はしなかったけどね。



 そんなこんなあって、俺たちは目的の場所に到着。

 それは、このレオルの街を束ねる長の家だ。

 クエスト内容が記された書状には、まずレオルについたらここへ向かうよう指示があったのである。


「こんばんは~」


 挨拶をしながら家のドアをノックすると、初老の男性が出てきた。


「おおっ! もしやアルヴィン殿かい?」

「ええ。レイネス家のご当主様よりクエストの依頼を受けてやってまいりました」

「話はうかがっております。どうぞ上がってください」


 長に促されるまま、俺たちは家の中へと入る。

 さて、ここで詳しいクエスト内容が聞けるのかな。

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