第38話 喋るリザードマン
「はっ! そういえば!?」
なぜ会話ができるのかという質問に、リザードマン自身が驚いている様子だった。しかし、どうやら心当たり自体はあるらしい。
「そうか……これもすべては特訓のおかげか! ここに引きこもって苦節百年……やっと人間との会話に成功したぞ!」
何かをやり遂げたようで、盛大にガッツポーズを決めるリザードマン。とりあえず、悪いヤツではなさそうだが……
「ああー……ちょっといいか?」
「む? なんじゃ?」
「念のため、確認しておくけど……モンスターなんだよな?」
「さっきもそう言ったではないか」
うん。
聞き間違いでも見間違いでもないようだ。
「モ、モンスターっていうには……ねぇ?」
「は、はい……」
あまりにもモンスターらしくない言動に、レクシーとシェルニも困惑している。もちろん、俺だってこんな調子のモンスターとは出会ったことがないので、倒すのかどうか未だに判断しかねていた。
俺たちの戸惑いを尻目に、リザードマンのテンションは上がる一方だ。
「いやぁ、嬉しいのぅ……こうやって人間と話せるようになるとは!」
「ずっと人間と話したかったんですか?」
「それはもう!」
シェルニの素朴な質問に、熱意をもって答えるリザードマン。……というか、シェルニがまったく怯えることなく話しかけるとは。外見は誰が見てもモンスターなのだが、どことなく人間臭さがあるという点が恐怖心を和らげているっぽいな。
なら、俺も気になったことを尋ねてみるか。
「どうしてそこまで人間と話したいんだ?」
「その話をすると長くなるのぅ……こっちへ来てくれんか?」
「えっ?」
「大丈夫じゃ。取って食おうなんてマネはせんよ」
明るい調子で、リザードマンは俺たちを遺跡の奥へと案内する。
倒壊が心配される遺跡だったが、リザードマンが進む先にあるのはまったくそんな様子を感じさせない場所――というか、明らかに造られた年代が違う。リザードマンが向かっている場所は、他の遺跡と比べるとまだ最近できたものと思われる。
「まさか……ここは」
「吾輩が建てた家じゃ」
やっぱりか。
「えぇっ!? あなたが建てたの!?」
「建てたといっても、建築の専門的な知識や技術は書物で読みかじったものだがじゃな」
「書物?」
こんな地下深い場所に書物だって?
俺はそれが妙に気になった。
「おっと、大事なことを忘れておった」
書物の件を訪ねようとしたら、リザードマンが歩を止めた。
「まだ自己紹介をしていなかったのぅ」
「自己紹介?」
本当に人間みたいなことを言うモンスターだな。
「私の名前はシェルニです!」
「レクシーよ。種族はワイルドエルフ。よろしくね」
あっさりと自己紹介するふたり。
まあ、自己紹介くらいなら別にいいか。
「俺はアルヴィンだ。一応、魔剣使い兼商人をしている」
「魔剣? 魔剣使いなのに商人?」
「……いろいろあったんだ」
モンスターでさえ首を傾げる組み合わせ……これから、自己紹介の文句を考えておかないといけないな。初めて聞いた人は何がなんだか分からなくなりそうだ。
「シェルニ殿にレクシー殿にアルヴィン殿じゃな。うむ。名前は覚えたぞ」
「そういうあなたには名前があるのか?」
「一応、ドルーという名を自分で考えてみたんじゃ。なので、そう呼んでもらえると嬉しい」
自分の名前まで考えていたとは……ますます人間っぽいな。
ドルーの案内で、彼が住んでいる家に到着。
一歩中へ踏み込むと、その空間に俺たちは思わず声を漏らした。
「わっ!」
「す、凄いわね」
「これは……」
俺たちの視線を釘付けにしたのは――家のいたるところにある本棚だった。しかも、その本の内容がとんでもない。
「こ、これは古代魔法文書!?」
俺は目についた一冊を手に取って叫ぶ。
古代魔法文書についての知識がないふたりと一匹はキョトンとしているが、これは歴史を揺るがしかねない大発見だぞ。
歴史の闇に葬られた古代魔法の数々……これを使いこなすことができれば、魔族との戦いにおいて、グッと優位に進められるはず。何せ、あまりにも強力すぎて使用を禁じられるほどの魔法だ。現代では禁忌魔法とされているものも多い。
それを記した書物が一冊どころでなく、少なく見積もっても五十冊はあるぞ。それ以外にも、歴史的にとても貴重な本ばかり揃っている。
「い、一体どこでこれを……」
「その本ならば、遺跡の中で見つけた」
「他に、これと同じような本は!?」
「そこにあるので全部じゃが?」
「そ、そうか……」
さすがに、すべてが残っているわけじゃないか。しかし、ここにある五十冊近い古代魔法文書……もし、俺の予想が当たっているなら、この遺跡は――
「!?」
本を手にしていた俺は、家の外に異様な気配を察知して振り返る。それはレクシーやシェルニ、そしてドルーも感じ取ったらしく、全員が同じ場所へと視線を移した。
やがて、俺は家の外へと出る。
それを追うように、三人も出てきたが――その足はすぐに止まった。
「あれは――人?」
俺が見つけたのは人影だった。
人相や性別どころか、そもそも人であるかどうかも確認できないほど遠くにいる影なのだが……明らかに何かがそこにいた。
それは徐々に近づいてきて――とうとうその姿を現す。
「おや? これは驚いた……まさか先客がいるとは」
それは一見すると気の弱そうな優男だが……俺は彼をよく知っている。
なぜなら、
「ジェバルト騎士団長!?」
エルドゥーク王国騎士団を束ねる、ジェバルト騎士団長だったからだ。
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