第16話 レラーヌの正体

 どうやら、フラヴィアはこの子を知っているようだ。


「面識があるのかい、フラヴィア」

「え、えぇ、オーレンライト家が祖父の代から専属で雇っている商人のお孫さん――ですわよね、レラーヌさん?」

「は、はい! そうです! 覚えていてもらえて光栄です!」


 フラヴィアの記憶に顔と名前があったことを知って喜ぶレラーヌ。俺たちは行動をともにすることが多いので意識が薄れているが、彼女は国内でも有力な御三家と呼ばれる大貴族のご令嬢なのだ。そういう認識が正しのだろう。


「オーレンライト家の専属、か」


 御三家の一角と専属契約って……規模としてはかなり大きい部類に入るようだな。だとすれば、彼女が狙われていた理由もすぐに察せられる。


「君を狙っていたのは誘拐して身代金を得ようとしていた悪党か」

「その線が濃厚ですわね」

「だ、だったら、すぐにご両親へ連絡をした方が……」

「ダメなんです」


 シェルニの提案は少女に却下されてしまう。

 理由は至ってシンプルなものだった。


「父も母も商談で国外に出ているんです……私は――」


 そこでレラーヌは気を失ってしまった。


「お、おい!」

「大丈夫だよ。疲れて眠っちゃったみたい」

「こんな小さな子がずっと知らない男に連れ回されていたんだから無理もないわね」

「可哀そうです……」


 ケーニル、レクシー、ザラは倒れそうになっているレラーヌを揃って抱きかかえる。相変わらず生きピッタリだな。


 しかし、まさか同業者の娘さんだったとはな。

 おまけに話を聞く限りじゃかなりの大手らしいし……シェルニが心配していたようにこのまま放置しておくのも危険だ。


 そもそも、両親が国外に仕事で出かけているということは、彼女を守るべき護衛役がいたはずだ。

 それがいないとなると、何かトラブルに巻き込まれたか、或いは――その護衛役が誘拐の黒幕ってオチかな?


「…………」

「あら? アルヴィンさん、どちらへ?」

「ちょっと急用ができてね」

「……奇遇ですわね。わたくしもそちらに用件がありますの」

「私も!」


 フラヴィアとケーニルが同行に名乗りをあげた。

 振り返ると、シェルニ、レクシー、ザラの三人がこちらを見つめながら頷く。

 それだけですべてを察した。


「じゃあ、行ってくるよ」


 俺は三人にそう告げると、フラヴィアとケーニルを連れてダビンク北区へ向けて歩きだした。

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