第205話 スカウト

 カジノでの騒動がひと段落つき、アルヴィンたちはダビンクへ戻る日を迎えた。

 馬車を用意し、帰り支度を進めていると、そこへひとりの女性がやってくる。


「忙しないのだな」


 エルドゥーク騎士団の女騎士ハリエッタであった。


「自分たちの店のこともあるからな」

「そうだったな。貴様は商人であったな」


 どこか不満そうに言うハリエッタ。

 というか、何しに来たんだ?


「俺たちに何か用ですか?」

「いや……あの聖拳士タイタスを難なく倒したという魔剣使いが、商人をやっていることが不思議でね」

「こっちの方が性に合っていると思って」

「だが、その力は本物だ。――リシャール王子が注目するのも頷ける」

「リシャール王子?」


 リシャール王子とは、エルドゥーク王国の次期国王と目される人物だ。

 そんなお偉いさんのところまで、俺のことが伝わっているのか。

 まあ、魔族六将ふたりの目のレティル討伐に関しては、俺の功績になっているから、名前くらいは耳に入っているのかもな。

 ……しかし、注目されているというのは意外だった。

 王室関係者は騎士の成果に対して関心あるのはポーズだけで、実際は誰でもいいから成果をあげろって感じなのかと。


「王子は行方をくらましたガナードに代わる新たな救世主を求めている」

「!」

 

 ……なるほど。

 俺にガナードの後釜を任せようって魂胆か。

 さっき言っていた、「すんなり帰れない」というのはこれが理由か。


「随分と勝手な言い分ですわね」


 その時、ハリエッタの言葉に食いついたのはフラヴィアだった。


「アルヴィンさんがパーティーから理不尽に追放されたことはあなたたち騎士団もご存じのはず」

「あれはガナードが虚偽の報告をしていたせいだ。聖騎士ロッドの弟子で魔剣使いとのことだが、まったく使いこなせていない、と」

「彼の日頃の見るに堪えない態度についても認識していたはず。それを鵜呑みにするのは危ういと感じるはず……ですが、あなた方は――」

「たかが商人でいるより、騎士として名を馳せた方がいいに決まっている。一度は失ったその権利をもう一度与えてやろうというのだ」

「っ!」


 まずい。

 フラヴィアの怒りが頂点に達しそうだ。

 俺は慌ててふたりの間に割って入る。


「ともかく、俺は騎士団へは入らないし、救世主の後釜にも興味はない」

「何っ!?」


 意外そうな声をあげるハリエッタ。

 ……むしろ、なんで了承すると思ったんだ?


「俺はガナードのように救世主の立場に執着しない。魔王討伐はそっちで勝手にやってくれ。そのための精鋭部隊だろう?」

「ぐっ……!」


 ハリエッタは何も言い返さず、その場を立ち去った。


「わたくし、あの方が嫌いですわ」

「ははは、確かに……なかなか強引だったな。それより――ありがとう、フラヴィア」

「あら? なぜお礼を?」

「俺のために怒ってくれただろう?」

「!?」


 途端に、フラヴィアの顔が真っ赤に染まる。

 あっ、無意識だったんだ。


 でも、仲間にそうやって言ってもらうのは素直に嬉しい。

 本当に、今のパーティーが組めてよかったと、心から思うよ。




 ――その後、ダビンクへ向けて出発すると報告をしに、クラークさんとフィーユのもとを訪れた。


「本当に、ありがとうございました!」


 涙ながらにお礼の言葉を口にするフィーユ。

 さらに、クラークさんからは「感謝の気持ちだ」ということで、さまざまな商品をくれた。どれもかなりレアリティの高いアイテムばかりだが……「是非もらってくれ!」と力強く言われてしまっては断れない。


 たくさんのお土産を手に、俺たちはダビンクへと帰還した。

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