第33話 新たなダンジョン

 レクシーの助力もあって、開店日の売り上げはこちらの想定を遥かに上回る結果となった。

 そんなレクシーから相談を持ちかけられた俺は、詳しい話を聞くためと、今日のお礼も兼ねて彼女を夕食へと誘った。


「わあっ! おいしそう!」


 料理担当は俺。

 ちなみに、本日のメニューは鶏肉とたっぷり野菜のシチュー。


「はあ……魔法と剣術だけでなく料理まで得意なんてねぇ……」

「師匠と旅をしながら修行している時は、俺が料理番だったからな。これでもちょっとは腕に自信があるんだ」


 師匠は味にうるさかったからなぁ……自分じゃ絶対作らないくせに。剣や魔法に関してはしっかりと教わったが、こと料理に関しては師匠の味に合わせることを念頭に独学で覚えていったのを今でも鮮明に覚えている。


 それがどういうわけか、いろんな人からも好評を得ているので、まあ、よしとしようかな。


「それで、さっきの話の続きだけど」

「あ、そうそう! あたしと組んで氷のダンジョンに挑みましょう!」

「「氷のダンジョン?」」


 俺とシェルニは顔を見合わせながら思わず繰り返してしまう。あまりにも聞き慣れないダンジョンの特徴……氷っていうくらいだから、相当寒いっていうのはすぐに思いついたが、果たしてどんなところなのか。


「出てくるモンスターも結構手強くて……あたしとしては、とりあえず二階層くらいまで様子を見ておきたいのよね」


 とりあえず、そこまで潜ってみて、自分の実力とダンジョンの難易度を照らし合わせたのちに、今後の方針を決めるらしい。

 俺たちとしても、最初に潜ったダンジョンはすでに最深部まで攻略済み。あそこは魔石こそ多いが、それ以外は正直肩透かしを食らったって印象が強い。新しいダンジョンで新しいアイテム探しをするのも一興だな。どうせ、もう店で売る商品もなくなってしまったし。


「長らく商売を続けるためにも、お手軽に入手できて、それなりの値段で売られる物があればいいんだが」

「そんな商品があればどのお店でも売っているわよ」

「それもそうだな」


 俺とレクシーが話している間、シェルニは皿洗いをしていた。料理当番と皿洗い当番を分けるつもりでいるが、今のところ、シェルニは料理のレパートリーが少ないらしいのでこの形に落ち着いている。


「ギルドで仕入れた情報によると、第二階層までとはいえ、かなりの長丁場になりそうなのよ」

「ということは……食料を用意していかないとな」

「それなら、私がお弁当を作りますね」


 そう言いながら、パタパタと駆け寄ってきたシェルニ。


「お弁当? ……大丈夫なの?」


 シェルニの料理の腕については未知数となっているレクシーからすれば、ちょっと心配であるには違いない。


「そ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ! 作るのはサンドウィッチですし」

「それなら確かに安心ね」


 まあ、パンに肉や野菜を挟むだけだし……変なアレンジをしなければ無難においしいものができるはずだ。


「普通に作ったのでは面白みがないので我流アレンジを加えたいと思います!」

「いや、それだけはやめてくれ」


 思った矢先にシェルニがそれを実行しようとしていたので止める。


「あ、そうそう。もうひとつ言い忘れたことがあったわ」

「? なんだ?」

「ここからそう遠くない距離に――魔王軍の先兵が現れたらしいわ」

「! 魔王軍か……」


 今の俺には関係ない話だが……気にならないといえば嘘になる。

 魔王を倒して世界を平和に導く――俺もそれを目標に、ガナードたちのパーティーに加わったんだ。

 その目標は達成できないと悟り、俺はあっさりと追放宣言を受け入れてパーティーを抜けると、この町で店を開いた。


 ……魔王軍がこの町に迫ってくるっていうのなら、防衛のために俺も魔剣を抜くが――魔界に乗り込んで連中を倒すのは、ガナードたち救世主の役目だ。俺がいなくても大丈夫だとガナードは言い切ったのだから、ここは任せておこう。


「そうか。……でも、こちらには接近していないのだろう?」

「まあね。あくまでも様子見のための先遣隊って感じだったらしいし」

「で、でも、本格的に攻めて来られたら……」


 シェルニの不安はもっともだ。

 今後、店の他に、魔王軍の動向にも少し注意をしておく必要がありそうだな。

 



 その日はレクシーを二階の客室に泊めることとなった。

 魔王も重要だが、店の商品確保も重要案件だ。


 気持ちを切り替えて、俺たちは明日――新しいダンジョンへと挑む。

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