第167話 魔剣修復の条件
その日の夜。
メアリーさんの家は建ててから初めてという大人数で埋め尽くされた。
しかもそのすべてが若い女性である。
「嬉しいねぇ。いつもはむさい商人のオヤジどもばかりを相手にしているから目の保養になるよ」
普段は絶対に見ることができないニコニコ顔のメアリーさん。
キッチンで調理をするフラヴィア、シェルニ、レクシー、そしてお手伝いに勤しむケーニルとザラ――メアリーさんの顔はすっかり孫を見守るお婆ちゃんになっていた。
「まさか魔人族まで引き込んでいようとはのぅ」
「いろいろと事情があって」
「まあ、昔からおまえさんはいろんな輩に好かれておったからのぅ。人嫌いの爺さんが弟子にすると言いだしたくらいじゃし」
言われてみればそうだな。
師匠って、あまり人付き合いしなかったけど、誘ってくれたのは師匠の方だったな。
「じゃあ、夕食ができるまでの間に……改めて見せてもらおうかね」
「あ、は、はい」
今回の依頼品である折れた魔剣を差し出す。
「しかし……ここまで見事にポキッと折れるとはねぇ」
テーブルの上に折れた魔剣を並べてメアリーさんは大きくため息をついた。
「魔族六将……私はあの人が戦った氷雨のシューヴァルしか知らないけど……他も相当強いようだね。でも、そんな連中をすでに半分も倒すとは……」
「すべては魔剣のおかげですよ」
「…………」
俺の言葉を耳にしたメアリーさんの表情が一瞬曇った。
あれ?
何か、気に障るようなこと言ったかな?
「……アルヴィンよ」
「は、はい」
「この剣じゃが……手持ちにある材料で作業をすると、完璧に使えるようになるのは大体五年後くらいじゃ」
「ごっ!?」
思わず叫んでしまう。
「な、そ、そんなにかかるんですか!?」
「今の手持ちなら、と言ったはずじゃ」
「えっ? つ、つまり?」
「鈍いヤツじゃのぅ。材料を採って来いと言っておるのじゃ」
材料……そういえば、師匠も新しい剣を作ってもらう時とか、よく裏の山に狩りへ行っていたっけ。
「熟知しておるじゃろうが、魔剣は普通の剣とまるで構造が異なる。ゆえに、材料も他とは違った、入手困難な物ばかりじゃ」
「それは興味深いですわね」
完成した料理が盛られた大皿を持ったフラヴィアが、俺たちの会話に割って入る。
「具体的にどのような材料が必要になりますの?」
「大きく分けてふたつじゃね。ひとつは銀魔鉱石。こいつは非常にレアな魔鉱石でね。採掘されているのはローグスク王国という小さな国じゃ」
「ローグスク王国?」
「あ、私の国です」
思わずシェルニが反応した。
「なんだい、シェルニ。『私の国』とは……まるでその国のお姫様のようなことを言うんじゃないか」
「? 姫ですよ?」
「かっかっかっ! ……なんじゃと……?」
最初は冗談と思っていたみたいだが、周りの反応からマジだと察したようで目を丸くするメアリーさん。
そうか……シェルニがローグスク王国のお姫様だって言ってなかったか。
メアリーさんは「コホン」と咳払いを挟み、続ける。
「ならば、ひとつは簡単に手に入るじゃろう。ならば、問題はあとひとつ――この山に潜む、一角狼の角じゃな」
「それならあたしたちが行くわ」
「お任せください!」
「アルヴィンの剣を直すお手伝いをするよ!」
レクシー、ザラ、ケーニルが頼もしいことを言ってくれる。
「ふふふ、いい仲間を持ったじゃないか、アルヴィン」
「えぇ。俺には勿体ないくらいですよ」
本当に……みんなには感謝しないとな!
――ちなみに、フラヴィア、ザラ、レクシーがそれぞれ御三家令嬢だと知ると、メアリーさんは再びフリーズし、呆れ気味に「おまえというヤツは」と言って頭を抱えたのだった。
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