第21話 事後処理
ダビンクで暗躍していた奴隷商一味を捕獲した俺は、信号弾を打ち上げてザイケルさんに合図を送る。
北区からの信号弾に、ザイケルさんは何事かと大勢の自警団メンバーを引き連れてやってきたが、信号弾を送ったのが俺で、拘束魔法により身動きが取れなくなっているローブの男たちを目の当たりにすると、途端に脱力して大きなため息をつく。
「ったく、やるならやると声をかけてくれよ」
「大袈裟にしたら、黒幕に逃げられるかもしれませんしね」
「黒幕、か……こっちのローブの男がそうか?」
未だに気を失っているローブの男。ザイケルさんは男の素顔を隠しているフードを取ると、思わず「なっ!」と声をあげた。
「知っている人ですか?」
「こいつは……元王宮魔法使いのマーデン・ロデルトンだ。確か、エルドゥーク王国魔法兵団に所属していたが、組織の金を私的に使い込んでいたことがバレてクビになったと聞いていたが……」
王宮魔法使いっていえば、まさに選ばれた者。
エリート中のエリートだ。
そんな立派な御方が、こんな薄暗い場所でチンピラどものボス気取りとはね。
「ザイケルさん、この男が目を覚ましたら、俺に連絡をくれませんか?」
「構わないが……何か私怨でもあるのか?」
「いえ、この男――シェルニの過去を知っているみたいなんです」
「シェルニの過去?」
そうだった。
ザイケルさんには、まだシェルニが記憶をなくしたということを伝えていなかった。
とりあえず、現状で把握しているシェルニについての情報を伝えると、ザイケルさんは複雑な表情を浮かべた。
「! そうか……あの子は記憶がなかったのか。育ちが良さそうだから、もしかするとどこかの貴族の令嬢なのかもしれないな」
「ザイケルさんのところにそれっぽい情報は入ってきていませんか?」
「行方不明の貴族令嬢……あいにくと知らないな。何かそれらしい情報が舞い込んだら、すぐにおまえへ知らせるよ」
「ありがとうございます」
ザイケルさんにお礼を述べると、自警団によって王都から来る騎士団へその身柄を引き渡すため、連行されていく男たちへ視線を移した時だった。
「ぐっ、おっ、あああああああああああああああ!!」
突如、ローブの男ことマーデンが泡を吹いて苦しみ始めた。
「お、おい、どうした!?」
「何があった!?」
取り囲んでいた自警団のメンバーが声をかけるも、マーデンの苦しみはだんだん強くなっていき――とうとう糸が切れたように動かなくなった。すぐに自警団が駆け寄って身体検査をするが、脈を確認した男は静かに首を横へと振った。
「なんてことだ……」
ザイケルさんが心底悔しそうにつぶやく。
恐らく、何者かがマーデンに魔法――いや、この場合は呪いというべきか……とにかくろくでもない仕掛けを施していたものと思われる。
それにしても……俺まで完全に裏をかかれた。
どうやら、このダビンクの奴隷商を巡る問題はかなり根深そうだ。
◇◇◇
俺はしばらく北区へととどまり、シェルニの過去を知る手掛かりになるような物はないか、連中のアジトを調査していたが、残念ながらそれらしい資料を手に入れることは叶わなかった。
ザイケルさんは冒険者たちや騎士団にも声をかけ、これを機に北区の完全開放を目指すため動きだすと宣言。まあ、北門が開けば、来訪者も増えるし、これまで以上にクリーンな町で売りだせるな。
俺としても、シェルニが安全に暮らせる町になったという当初の目的は果たせたわけだから、まったくもって無収穫というわけでもない。
シェルニの情報は、これからまた集めていけばいい。
そんなことを考えているうちに、家へと到着。
気がつけばすっかり日が暮れ、すでに職人たちは帰宅済みのようだ。
しかし、家の中から明かりが漏れている――どうやら、シェルニが待っているようだ。
「ただいま」
「あっ! おかえりなさい、アルヴィン様!」
俺が家に戻ると、シェルニがパタパタと駆け寄ってきた。
そして、今日一日の出来事を嬉しそうに語りだす。
その様子を見ていると、こちらも自然に笑みがこぼれる。
「? どうかしましたか? 私、何か変なこと言いました?」
「いや、違うよ。すまない」
シェルニへの脅威は取り除けたわけだし、明日から本格的に商売を始めていこうか。
……とはいえ、売れるような物もないし、アイテムを入手するためにもダンジョンへ潜ろうかな。
もちろん、シェルニも一緒に。
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