最終話 魔剣使いの商人
魔界から帰還して一ヶ月が経った。
「ふあぁ~」
窓から差し込む朝日を浴びて目覚めると、そのまま部屋を出た。あくびをしながら一階へおりると、朝食を作っているシェルニ&ザラと遭遇。
「おはようございます、アルヴィン様」
「朝食はもうちょっと待っていてください」
「ああ、ありがとう、ふたりとも」
俺は顔を洗おうと洗面所へと向かう。
冷たい水を肌に当てると、体と一緒に気持ちまでキュッと引き締まる感じがした。
食堂へ戻る途中、廊下の窓から中庭を見てみる。
すると、馬の世話に精を出すレクシーとケーニルのふたりを発見する。
ふたりは昨晩、今日も朝食を終えたらダンジョンに潜ると言っていたし、その準備の一環も兼ねているのだろう。
レクシーはハイゼルフォード家を再建しないかとブライス王から直々に話を持ち掛けられていたが、それを断った。今の自分は冒険者レクシーだと主張したのだ。
一方、ケーニルは魔界へ残らず、再びこの人間界で暮らすことに決めた。
まあ、フラヴィアが次元転移魔法を使えるから、ガルガレムとは今生の別れとまではならなかった。とはいえ、そう軽々と行けるわけではないので、基本はこちらの世界で生活をしていくという。
「あれ? アルヴィン? 今日は遅かったじゃない」
「おはよう、アルヴィン」
「おはよう、ふたりとも。昨日はちょっと夜更かしをしてね」
「何ぃ? 悪だくみ?」
「いや、そんなんじゃないよ。キースさんからちょっとした頼まれ事をされていたんだ」
「頼まれ事?」
そう。
魔王討伐を果たし、ようやく商人としての仕事に専念できるようになったのだが、それを知った商人としての師匠であるキースさんが先日店へとやってきた。
用件は――俺に商会を作らないかという誘いだった。
今回の件で、すでに多くの国や地域に《魔剣使いの商人・アルヴィン》の名前は知れ渡っているらしく、キースさんのもとへも問い合わせが何件も届いているらしい。
俺はキースさんからの申し出を受けようと考えていた。
ただ、彼のように世界をまたにかける大商人というよりは、このダビンクに住む人たちにより良い商品を安価で提供できるようにしたいという気持ちの方が強い。
商会を作れば、うちに品物を卸したいという者たちも増えるだろう。そうなれば、俺の目的を果たせるというわけだ。
ちなみに、今回の商会の件には強力なバックアップの存在がある。
ひとつはシェルニの実家であるローグスク王国。
ひとつはザラのレイネス家。
そしてもうひとつは――
「あら、ここにいましたのね。朝食の用意ができたそうですわよ」
フラヴィア・オーレンライトだ。
「…………」
「な、何ですの?」
「いや……いつもありがとう、フラヴィア」
「!? ど、どうしたんですの、急に!?」
動揺しまくるフラヴィア。
そんなに変なことを言った覚えはないんだけどなぁ。
「アルヴィン様!」
中庭でワーワー騒いでいると、シェルニが呼びに来た。
せっかく朝食を作ってくれたのに、なかなか行かなかったので怒っちゃったかな?
――と、思いきや、
「お客さんです!」
「えっ? 客?」
「な、なんでも、大至急必要なアイテムがあるとかで」
「そうか。……それなら、開けないといけないな」
苦笑いをしつつ、俺は――いや、俺たちは店へと向かう。
今日もまた、忙しくも楽しい一日となりそうだ。
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※長らくお読みいただき、ありがとうございました!
本作の今後については近況ノートで報告予定です!
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