第161話 戦い方

 これまでの敵とは段違いの強さを見せるアイアレン。 

 けど、その強さの秘密――もしかしたら、打ち破れるかもしれない。

 ただ、それを実行するには少し危険が伴う。

 なので、


「全員、この場から逃げてくれ!」


 俺は避難するよう叫ぶ。


「ど、どういうことですの!?」

「あたしたちも戦うよ!」


 フラヴィアとレクシーは反対するも、シェルニが真意を理解してくれていたようで、


「みなさん、ここはアルヴィン様にお任せしましょう!」


 と言って説得してくれた。

 

「……どうやら、ここは素直に彼の指示を受け入れた方がよさそうだね」


 続いて、ジェバルト騎士団長も同意。アイアレンと戦っている兵たちを集めて、鉱山からの脱出を始めた。


「はっ! もう降参とは……情けない」


 兵たちの撤退を見たアイアレンはそう煽るが……その余裕も、そう長くは続かない。今に思い知るだろう。

 全員が撤退を始めた頃、俺は改めてアイアレンと対峙する。


「結局残ったのは魔剣士ひとりか」

「ああ。まっ、俺ひとりで十分ってことだよ」

「ほう……」


 あ。

 今確実にカチンと来たな。

 いいぞ。

 少しでも取り乱してくれた方が、作戦はやりやすくなる。


「いくぞ!」

「ふん! 何度やっても同じことだ! 貴様の魔剣は私に通じん!」


 硬化したアイアレンの肌には、確かに魔剣が通じない。

 だが、それを維持するには大量の魔力が必要のはず――ヤツは、どこかから魔力を常に供給しているのだ。


 その場所は――


「はっ!」


 俺はダッシュでアイアレンとの距離を詰めると、そのままジャンプ。魔剣の力によって身体能力を向上させていたため、岩肌の天井近くまで上昇する。

 俺が真正面からぶつかると思っていたアイアレンは、岩石で強化した両手で魔剣を振り払おうとしたようだが、それは空振りに終わった。


「何っ!?」


 ヤツにとって想定外の動きを見せたことで、初めて動揺した声を出すアイアレン。

――それを聞いて確信に至ったよ。


「ここだ!」


 俺は剣先に魔力を収束させると、それを天井へと叩き込んだ。

 この一撃により、鉱山は崩落を始める。


「何をするかと思いきや……捨て身の策か!」


 アイアレンは俺が崩落で圧死させるつもりと考えているようだが――違う。俺は遮断したかったんだ。ヤツの魔力の流れを。


「む?」


 どうやら、ヤツもそれに気づいたようだな。

 さて、のんびりはしていられない。

さっさとこいつを倒して、急いでここから出ないと。


「き、貴様! 何をした!?」

「あんたの魔力供給元を断ったんだ」

「! き、気づいて――」


 アイアレンは咄嗟に口をつむぐが、もう遅い。ていうか、こっちはもう手の内を把握したし。


「あんたは銅像にした人間たちの魔力を吸い取っていたんだろう? それらをまるで網目のように鉱山内へ張り巡らせ、常に供給を行っていた。あんたが俺たちの攻撃を受けてもダメージが少なかったり、強力な攻撃を連発しても魔力切れを起こさなかったのはそれが原因だ」

「ぐぐっ……」


 図星、か。


「こちらの仕掛けを見破ったくらいでいい気になるなよ! このまま崩落が進めば、貴様は確実に死ぬのだ!」

「……まあ、どのみち本気で戦うとなったら、ここを崩落させてしまうくらいの規模にはなりそうだったから、みんなを逃がす口実にはなったよ」


 そう。

 俺が崩落させたのには理由がふたつある。

 ひとつはヤツの魔力供給を遮断するため。

 もうひとつは――派手に暴れて、みんなを巻き込まないようにするためだ。


 俺は再び魔剣へと魔力を注ぐ。

 崩落を始めた鉱山内で、アイアレンと決着をつける戦いが始まった。

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