第117話 深緑のレティル
深緑のレティルを捜し、俺とフラヴィアは植物の城の二階に到達。
そこは一階よりも一層複雑に蔓が絡んだ場所でジメジメとしおり、太陽光が遮られていることで湿気と熱気が凄かった。
「ここは……人がいるべき場所じゃないな」
「まったくですわね」
ある意味、砂漠の城より居心地が悪い。
ただ、それは城主の考え次第で、砂漠の城だって本当はもっと環境を劣悪にできたと俺は思う。
単純に、心構えの違いだ。
砂塵のデザンタは俺たち人間を見下していた。
きっと、負けることなど微塵も想像していなかったのだろう。
現に、人間界の希望とされる聖剣使いのガナードが正面からデザンタと戦っていたら……敗北は必至だった。あいつも、今回の件はいい薬になっただろう。だからといって、すぐに人格が変わるとは思わないが、きっかけにくらいはなってほしい。
「アルヴィンさん……あちらから凄まじい魔力を感じますわ」
そんなことを考えていると、フラヴィアが緊張した声色でそう伝えてきた。
視線の先にあるのは大きな扉。
砂漠の城と同じだ。
恐らく、この先に――深緑のレティルがいる。
扉越しでも分かる、魔族特有の魔力……それが何よりの証拠だ。
「……周囲に異常はないようだな」
砂漠の城では、最初に現れた扉はトラップだった。
ここでもそうなのかと周囲をチェックするが……その様子はないな。
これまでを振り返って、俺はある印象を抱いた。
「……どうやら、敵は相当焦っているようだな」
「焦っている?」
俺の言葉に、フラヴィアが首を傾げる。
「デザンタが倒されて間もなくここを襲撃したのも少し気がかりだ。魔族六将の一角が崩れてしまったことに慌てているのか、あるいは……」
「あるいは?」
「個人的な恨みとか。次の魔族六将――深緑のレティルと仲が良くて、私怨のために襲ってきたかもしれないと思って」
恐らく、敵がここを狙ってきたのはデザンタが倒された砂漠からもっとも近い位置にある都市だから。騎士たちの多くが立ち寄ったらしいし、未だに救世主がダビンクに残っていると思った可能性がある。
……とはいえ、魔族が友情に厚いとか、そんな話は聞いたことがない。
もっと別の理由――例えば、デザンタを倒した人間を討ち取ったことで魔王から褒美をもらおう、とか?
いずれにせよ、これまでとは状況が大きく異なる。
より慎重を期さなければならない。
「さて……ケーニルたちが心配だから、さっさと魔族六将を片付けよう!」
「わたくしも全力でサポートしますわ!」
フラヴィアとふたりで扉を蹴破り、中へと入る。
すると、
「! だ、誰もいませんわ……」
そこは天井の高い、広い空間があるだけで、何者の姿もなかった。緊張していただけに拍子抜けを食らった形だが――それが敵の狙いだった。
「っ!? フラヴィア、危ない!」
「えっ? きゃっ!?」
俺は魔剣を抜きつつ、反対の腕でフラヴィアを抱き寄せた。その直後、天井から巨大な岩が落下してきた。
「こんな小細工を仕組んでいたとは――なっ!!」
魔力をまとった魔剣で巨岩を両断すると、ズシン、という音を立てながら斬られた岩が転がっていく。
「さすがにこの程度は無理のようね」
どこからともなく、女の声がした。
見ると、先ほどまで何もなかった空間に、ひとりの女がたたずんでいる。
紫の肌に黒目と金色の瞳――この特徴だけで、相手が魔人族だと分かった。
デザンタと違うのは髪の長さと色くらい。
俺たちの前に立つ魔人族は、腰まで伸びた緑色の髪をしていた。
「驚いた。まさか魔剣使いだなんて」
「おまえが……深緑のレティルか」
「その通りよ。……なるほど。あなたが私のデザンタを殺ってくれたってわけね」
「そういう――私の?」
その言い方……もしかして、デザンタとレティルはそういう間柄だったのか。
だとしたら……相手の闘争心は相当なものになるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます