第313話 決着

 師匠と同じ魔剣。

 これほど心強いことはない。


「あの男と……ロイドと同じ剣か……」


 シューヴァルは大きく深呼吸をして、二本の剣を構える。向こうも次が最後の一撃と腹をくくったようで、これまでになく禍々しい。

 俺も魔剣を構える。


 その時、一瞬だけど……師匠の気配を感じた。


 まるで、一緒に剣を構えているようだ。

 そういえば、俺が師匠から剣術を教えてもらっている時、いつも俺の手を取って教えてくれた。しわくちゃで武骨な手だが、俺はその手が大好きだった。こんな土壇場で、昔のことを思いだすなんてな。


 単純な魔力差では、こちらが圧倒的に不利だ。

 対魔人族用の魔剣だが、相手に致命傷を与えるだけの攻撃力があるかどうか……火力不足は否めないか。


 その時、


「アルヴィン様!」

「アルヴィンさん!」


 シェルニとフラヴィアのふたりが叫ぶ。

 直後、魔剣全体をまとう魔力が増幅した。


「私たちの魔力を預けます!」

「これで戦えるはずですわ!」

「ふ、ふたりとも……」

「私も力を貸すよ!」

「あたしたちもやるわよ、ザラ! ヒルダ!」

「はい!」

「任せてください」

「俺も力を貸すぞ!」


 シェルニとフラヴィアだけでなく、ケーニル、レクシー、ザラ、ヒルダ、そしてブライス王子までもが俺に魔力を託してくれた。さらに、


「アルヴィン……俺の魔力も使え……人間のものとは別種だが……役に立つはずだ」


 倒れていたガルガレムも協力してくれた。

 周りから送られた魔力が合わさり、それは確実にシューヴァルのそれを上回る。これならば、ヤツを倒しえる。


「シューヴァル!」

「ぐっ!?」


 俺はみんなから託された強大な魔力をそのままシューヴァルへとぶつける。

 

「こ、こんなことが――」


 シューヴァルは魔剣と聖剣の力を解放し、踏ん張って俺たちの魔力を弾き飛ばそうとしている。

 ――だが、もはやその程度では止まらない。


 この世界を救おうとする想い。


 平和な世界を実現するため、この魔界にまで足を運んだ俺たちの想いが、そのまま力になったのだ。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


 凄まじい雄叫びを放つシューヴァルの体は少しずつ後退していき、やがて、残された壁へと到達する。それでも勢いは止まらず、とうとうその壁を突き破り、魔界の象徴とも言える紫色をした空へと消えていった。


 シューヴァルの姿が見えなくなってからしばらく経って、


「や、やったぞ!」


 ブライス王子の震える声が、俺たちの勝利を確信させた。


 だが、その瞬間、魔王城を大きな横揺れが襲う。


「ま、まずい! 城が崩壊するぞ! 逃げろぉ!」


 俺はそう叫ぶと、未だ階下でモンスターと戦闘する兵士たちにも非常事態を伝えながら城の外へ逃げるよう指示を飛ばす。


 勝利の余韻に浸る間もなく、俺たちは一目散に城の外を目指す。

 シェルニやフラヴィアたちがサポートをしてくれたおかげもあって、なんとか大きな怪我人を出すことなく、全員が脱出に成功。


 ――当然、これまでの罪をしっかりと償ってもらうため、新救世主パーティーの面々も連れだした。


 彼らには……いろいろと聞きだしたいことがあるからな。

 


 こうして、魔界での死闘は決着を見た。

 あとは人間界に戻るだけだ。

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