第67話 実情
ゴルロフに連れられて、俺たちは彼の村の近くにあるというダンジョンの出口へとたどり着く。
そこから外へ出ると、広がっていたのは一面の砂漠地帯。
「す、凄いです……」
「話は聞いていましたが……砂漠とはこれほどのものですのね……」
その雄大な景色に、シェルニとフラヴィアは視線を奪われていた。やはり、あのふたりは砂漠初体験らしい。
……とはいえ、いつまでも砂漠に感激している場合じゃない。
「こちらですよ」
ゴルロフの案内のもと、俺たちは彼の住む村へと向かう。
そこはダンジョンから肉眼で捉えられるほど近い位置にあった。周囲は砂に覆われた砂漠地帯でありながら、その一帯だけは草木が生い茂っている。これも、水が湧き出ているオアシスのおかげだろう。
村の規模は大きくない。
住人たちは家畜の世話や、わずかにできた畑で収穫した野菜で生活を送っていた。ほとんど自給自足みたいなものだ。
「ゴルロフ!」
村に入った瞬間、ひとりの女性が駆け寄ってきた。
「母さん!」
「無事だったのかい!」
どうやらゴルロフの母親らしい。騒ぎを聞きつけた村人たち続々と集まって来て、誰もがゴルロフの無事を喜んでいた。
やがて、彼らの視線は俺たちへと注がれる。
「ゴルロフ、こちらの方たちは?」
「あ、えっと――」
「通りすがりの冒険者ですよ」
俺はゴルロフに目配せを送りながら、そう言った。
フラヴィアがあの御三家の令嬢だったり、レクシーがワイルドエルフだったりと、説明しだすと長引きそうなので、ここは割愛。俺たちは村の脅威となる魔族を倒すためにやってきたといことだけを告げて、敵のアジトの場所を尋ねる。
すると、村の長老という人物が丁寧に説明をしてくれた。
「連中はあそこにある砂丘を越えた位置に砦を構えておる。魔族だけでなく、ヤツらの配下のモンスターたちもたくさんおるのだ」
「なるほど……」
長老が指差す先にある砂丘……思ったよりも距離が近いな。
これだけ近いと、村への被害も出るし、何より、村人たちは常にモンスターや魔族の脅威に怯えなければならない。
「王国騎士団や救世主は?」
「救世主様は準備が整い次第、こちらへ向かうことになっておると、城からの使いが教えてくれた。先行して騎士団が来てくれたには来てくれたのだが……」
村長は言葉に詰まり、村人たちの表情にも影が落ちる。
その反応で十分だ。
この村を救うために派遣された騎士団の者たちは――全員、敵に殺されたということだろう。
「相手は魔王軍幹部が引き連れている軍勢……そう易々と攻略はできないだろうな」
「私も止めたのだ。それだけの数で砦を制圧するのは無理だ、と。しかし、先行してやってきた騎士団のリーダーは聞く耳を持たず……」
突っ込んでいって全滅したというわけか。
絶対に避けなければならない最悪の末路……それを現実のものにしてしまったそのリーダーってヤツは、上に立って指揮を執る能力に欠けていたな。
まあ、だからといって有効な打開策が他にあるかと言われると、それは難しいかもしれない。
――あくまでも、実行するのが普通の騎士ならばって話だが。
「じゃあ、ちょっとその砦の様子を見てきますよ」
「!? お、おまえさん、話を聞いておったのか!? 騎士団の人間が挑んでも攻略できなかった砦だぞ!?」
「様子を見るだけですよ。……ちょっと戦闘になるかもしれませんが」
「危険すぎる! 大体、騎士団よりも少ないこの人数でどうやって――」
「少数精鋭という言葉もありますわ」
俺と長老の会話に、フラヴィアが割って入る。
「騎士団が何人であの砦に挑んだか知りませんが、少なくともわたくしたちのパーティーのメンツは、ひとりで騎士十人分の働きができますわ」
「バ、バカな……」
高らかに豪語するフラヴィア。
「まあ、ちょっとここで待っていてください。いろいろと調べてきますので」
「う、うむ……」
長老――だけでなく、村人全員が信じられないって顔をしている。
ともかくまずは前哨戦だ。
魔族の砦を拝みに行くとするか。
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