第149話 鉱山の異変
朝が来た。
宿屋で支度を整えていると、クリートさんが迎えにやってきた。
「おはようございます、アルヴィン様」
「おはようございます」
ロビーで軽く挨拶を済ませると、ちょうどシェルニたち女子組も二階にある部屋から下りてきた。
そこで再びクリートさんと挨拶を交わし、準備完了。
「宿の外に馬車を用意していますので」
「ありがとうございます」
俺たちは武器やアイテムを馬車へと詰め込み、レイネス家の領主――ザラの父親がいる鉱山へと向かった。
◇◇◇
荒れ果てたガタガタの道を進むと、鉱夫たちの作業場が見える小高い丘の上に出た。
そこから現場を眺めてみると、多くのテントが設営されており、かなり本格的な調査が行われていることが分かる。
「レイネス家の当主様は、例の地質調査とやらにかなりご執心のようですね」
「かなり厄介な状況であることは確かなようですが……」
どうやら、クリートさんもまだ状況を完全に把握しているわけではないようだ。
「大きな山ですぅ」
「こんなにでっかい山は魔界にもないよ!」
「ホントに凄い迫力ねぇ」
「レイネス家の領地にはこのような鉱山がたくさんありますの。そこから採掘される魔鉱石はさまざまな場所で重宝されているのですわ」
女子四人は、連なる大きな山々の壮観な景色を眺めながら、それぞれ感想を口にしていた。
確かに、ここら一帯の山はデカい。
そうそう拝めるものじゃないからな。
……それにしても、
「妙ですね」
「むっ? 何がですかな?」
俺は現場に違和感を覚えていた。
クリートさんは特に何も感じていないようだが……どうにも腑に落ちない点がある。
「あの現場――人の気配がまったくしません」
「えっ? ……い、言われてみれば」
「レイネス家の当主はあそこにいるんですよね?」
「え、ええ。――っ! だ、旦那様!?」
主人の身に何かが起きたと悟ったクリートさんは走りだそうとするが、俺はそれを制止する。
「これだけのテントがあるということは、ここで作業に当たっていた人たちも相当いたはず。それがひとりもいなくなっているとなると……」
そこから先は言葉に詰まった。
悲壮感に包まれたクリートさんの表情を見たら、とてもじゃないが言えなかった。
とはいえ、このまま放置しておくわけにもいかない。
「ケーニル」
「うん? 何?」
「俺と一緒に来てくれ」
「いいよ!」
俺は人が消えたテント周辺を調べるため、ケーニルを連れて近づいてみることにした。クリートさんや他の三人にはここで待機してもらい、遠目から異常を察知したらすぐに知らせるように伝えておく。
「ケーニル、何があるか分からないから慎重にいくぞ」
「うん!」
何気にケーニルとふたりでの行動はこれが初めてだな。
さて、何が出るやら……。
丘をくだり、テント群へと潜り込む。
「……誰もいないな」
「そうだね。まったく気配を感じないよ」
どういうことだ?
まさか、この場にいる全員で鉱山に向かったとか?
だとしても、気になるのはテント群の中心にある焚火のあとだ。
「どうしたの、アルヴィン」
「この焚火……火が消えてからまだそれほど経っていないようだ。それに、ここにあるコップ……」
焚火あとのすぐそばに、コップが転がっている。
その周辺にはコップに注がれていたと思われるコーヒーがこぼれていた。
「これは……」
こぼれたコーヒーは、まるで目印のようにひとつのテントへと続いていた。
「あのテントに何かあるのか……?」
「行ってみようよ!」
「そうだな」
俺とケーニルは慎重にテントを近づき、そっとを中を覗き込んでみた。
そこには、
「!? ア、アルヴィン!?」
「な、なんてことだ……」
驚くべき光景が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます