第245話 アルヴィンの憂鬱
フェリオが騎士団に連行されていき、これで救世主パーティーは途中加入したリュドミーラを除いて完全消滅ということとなった。
――あれから、一ヶ月が経った。
救世主パーティーが消滅しても人々の生活に大きな変化はなく、それに呼応するかのように魔王軍も目立った動きを見せていなかった。
人間サイドはこの間に対魔王軍のため、軍事力を高めようと各国が同盟の動きを強めていた。その中心にいたのが、新たに聖剣の持ち主となったリシャール第二王子率いるエルドゥーク王国であった。
「……ふぅ」
俺は読んでいた新聞を折りたたむと、店のカウンターに置いた。
そこへ、
「アルヴィン様、外の掃き掃除終わりました♪」
箒を片手に上機嫌のシェルニが戻ってきた。
今日はフラヴィアとザラがそれぞれ家に戻っており、これまでのダビンクでの活動を報告をしている。一方、レクシーとケーニルは朝早くからダンジョンへアイテムの調達に向かっていた。
そのため、今店にいるのは俺とシェルニのふたりだけだ。
「よし。じゃあ、そろそろ店を開けるか」
「はい! ――って、どうかしたんですか、アルヴィン様?」
「えっ?」
俺としてはいつも通り振る舞っているつもりだったが……シェルニにはバレてしまったようだ。
「ああ……ちょっと昔を思い出してね」
「昔、ですか?」
俺の視線がカウンターにある新聞に向けられていることに気づいたシェルニは、それを追って俺の言葉の真意にたどり着く。
「ガナードもタイタスもフェリオも……素質は十分にあった。あんな風に驕らず、真摯に使命を果たしていたら、本当の意味で救世主になれたかもしれないのに」
そんなことを考えていたら、少し暗い気持ちになるな。
すると、
「で、でも、だから私はアルヴィン様と出会えました!」
「えっ?」
「あ、い、いえ! あの人たちが悪人でいたからよかったという話ではなくて……え、えぇっと……うまく言えないんですけど、とにかく私はアルヴィン様と出会えて本当に幸せだったと思っています!」
「……ははは」
なんだか、最初の話から逸れまくっているけど……シェルニが俺を励ましてくれているということはよく伝わった。
「今の俺にとって大事なのはこの店だからな。こうして、シェルニやみんなとのんびりお店をやっていけるように頑張るよ」
「アルヴィン様……」
目を潤ませながら手を組むシェルニ。
ちょうどその時、店の前に馬車が停まった。
「おっ? フラヴィアかザラが帰ってきたか?」
「ず、随分と早いですね」
「言われてみれば……」
朝早く出て行ったとはいえ、まだ昼前どころか開店直前の時間。
いつもなら、フラヴィアもザラも夕方くらいまでは実家にいるのに。
ともかく、出迎えようとシェルニと一緒に外へ出た。
馬車から降りてきたのは――フラヴィアだった。
「…………」
その表情はやけに険しかった。
思わず、シェルニが声をかけるのをためらうほどに。
「どうかしたのか、フラヴィア」
「……アルヴィンさん」
フラヴィアはため息をひとつ挟んでから、俺にこう告げた。
「今からわたくしの実家に来てくださいます?」
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