第72話 誤算
「死ねぇ!」
男が叫ぶと同時に、空の彼方で何かが光った。
その光を認識した直後、それは真っ直ぐこちら目がけて落下してきた。
標的は――ケーニルか!
「うん?」
ケーニルも自分が狙われていることにすぐ気づいたようだ。というより、あのおっさんがバレバレな態度だったから、最初から何か仕掛けてくると思ったのだろう。相手に先読みされちゃ、どんな強力な攻撃も無意味だよなぁ。
などと考えている間に、俺はシェルニたちを連れて再び砦の中へ飛び込んだ。今度は攻略のためにじゃなく、逃げ込むためだ。
俺たちがギリギリ砦へ飛び込んだ直後、凄まじい衝撃が走った。
これはただの砲撃じゃない。
明らかに魔力が込められた――魔法兵器だ。
「くっ!?」
「きゃあああああああああ!?」
叫ぶシェルニをフラヴィアが抱きしめ、レクシーとドルーも身を屈めて被害を最低限に収めた。
どれほどの間、衝撃が続いていただろう。
砦は半壊したが、俺たちはシェルニの防御魔法のためなんとか助かった。
これは……ただの魔法兵器じゃない。
「この衝撃と魔力……噂に聞く魔導砲ジェノイドか……?」
救世主パーティーの一員として、あちこちで情報収集をしている際に得た情報――その中に、魔導砲ジェノイドの話もあった。
最悪の大量破壊魔法兵器。
その一撃で戦局を覆すほどの威力があるとんでもない代物だという。
てっきり、これはただの噂話だと思っていた。
しかし、その後ちょっと興味を持って調べてみたが、エルドゥーク王国は確かにジェノイドという魔導砲を生み出し、しかも量産までしていた。
こうした兵器は対魔王軍用の兵器として運用される。
だから、ここで使用されるのもまったくおかしな話じゃない。
それにしても……いくらなんでも早急すぎやしないか?
騎士団の本命は、この先に待つ魔族六将のひとり――砂塵のデザンタのはず。
それにも関わらず、ここで使用するなんて。
「アルヴィンさん!」
俺が考え事をしていると、シェルニを抱きかかえたフラヴィアに呼ばれた。
「ナイジェルが放ったのは魔導砲ジェノイドという兵器ですわ!」
「やっぱりか」
「や、やっぱりって……ご存じでしたの!?」
「ある筋から得た情報だ」
そうか。
フラヴィアは御三家の一角を担うオーレンライト家の人間……国の機密事項である魔導砲の存在を知っていてもおかしくはない。魔法使いの家系だしな。
「でも、おかしいんですの……」
「おかしい?」
「魔導砲の使用を許された者は多くない……それに、あれだけの小規模でこの砦を制圧するために使用するとは思えませんの」
……まあ、それだけなら騎士団が方針を変えた可能性もある。
ただ、問題はもっと根本的なところにある。
「フラヴィア……」
「あの魔導砲だけど……本物なんだな?」
「え、ええ、そのはずですわ」
「そうか。――なら、期待外れのようだ」
「えっ?」
俺は立ち上がり、外へ出た。
――消えていないんだ。
あの強力な一撃で、ケーニルを倒せたというなら、力を持つ魔族が放つ独特の魔力がまったく消えていないというのは不自然。
つまり、
「今の一撃……なかなか良かったよ♪」
ケーニルは生きていた。
それどころか、ほぼ無傷だった。
「なんだと!?」
ナイジェルや騎士団の人間たちは大きく動揺。どうやら、さっきの一撃で完全に葬ったと思っていたらしい。まあ、普通のモンスター相手なら跡形もなく吹き飛ぶだろう。現に砦周辺にいたモンスターはすべて消し飛んでいる。
「いいものをいただいたので――お返しをしないと」
そう言うと、ケーニルは右手をナイジェルたちの方へ向ける。すると、掌には紫色をした魔力の塊が球体となって出現した。
「受け取ってよ」
放たれた球体をした魔力は、真っ直ぐナイジェルたちの方へと飛んでいき、大爆発を巻き起こした。
「なっ!?」
フラヴィアたちは硬直。
ケーニルは何のためらいもなく人を殺せる。
その非情さを目の当たりにして、「敵が魔族である」ということを改めて強く認識したようだった。
「待たせちゃったね。――続きをしよ♪」
満面の笑みで構えるケーニル。
俺も、再び魔剣を構えた。
「へぇ……ビビった感じはないね。やるじゃん!」
未だに余裕を見せるケーニル。
……見ていろ。
その顔――凍りつかせてやる。
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