第241話 遭遇

 偽ブランド事件の首謀者である元救世主パーティーのフェリオを追ってムジェルという町に来た俺たちは、彼女のアジトかもしれない町外れの教会へとやってきていた。

 

 ちょっとした森の中にあるその教会は、どうも今は使用されていないようで、廃墟同然であった。

 ……あのフェリオが、こんな場所にいるとはちょっと思えないな。


「ここまで来たのはいいけど……外れっぽいな」

「でしたら、一度町へ戻りますか?」

「いや……ちょっと中を見てみよう」

「だ、大丈夫でしょうか……」

「心配はいりませんわ、ザラさん。いざとなったらアルヴィンさんが敵を蹴散らしてくれますから」


 そう言って、フラヴィアは俺に向かってウィンク。

 信頼されているなぁ、俺。

 まあ、ふたりに手を出させはしない――というか、俺の助けがなくてもフラヴィアなら自力でなんとかしそうだし、ザラの場合は精霊たちが守りそうだ。


 とりあえず、中の様子をうかがおうと朽ち果てたドアへ手をかけようとした時だった。


「!」


 ドアに近づいた瞬間、何か気配を感じた。


「アルヴィンさん?」


 急に動かなくなった俺を見たフラヴィアはすぐさま異変を察知し、ザラの肩に手を添えると、守るように自分の方へと引き寄せた。


 俺は俺で、魔剣を鞘から引き抜くと、風魔法を発動させて朽ち果てたドアを破壊する。

 

「! やっぱりか……」


 そのドアには細工がしてあった。

 触れた者の意識を奪う催眠魔法の類だ。

 これは高等魔法の一種――こんなことができるのは、


「フェリオ!」


 俺は犯人の名を叫ぶ。

 すると、



「久しぶりね、アルヴィン。元気そうじゃない」



 教会の奥から姿を見せたフェリオ。

 その外見は、パッと見ただけだと最後に目にした時と何ひとつ変わらないように映った――が、その瞳はあの頃よりも淀みがかっており、薄汚れていた。


「砂漠での一件以降、まさかあんたが商人としてあそこまで成功するなんて思ってもみなかったわ。……どうせ、ガナードの名前を借りて成り上がったんでしょう?」

「あいつの名前をかたったら、逆に店の評判が悪くなるよ」

「言えてますわね」


 今や、救世主パーティーの悪評は世界中に知れ渡っているからな。そんなヤツの名前を出したら、マイナスにしかならない。

 

 だが、フェリオはそう考えているわけではないようだ。


「ふん。私たち救世主パーティーの一員だったことが幸いして成功をおさめているだけのくせに……大体、なんであんただけが得をしているのよ!」


 フェリオの意見としては、俺は救世主パーティーの一員だから商売が成功したのであって、同じパーティーである自分たちにもその利益を受け取る権利があるという。


「この人は……どうしようもないですわね」


 あまりの暴論に、フラヴィアは開いた口が塞がらないようだ。

 ザラも、意味が分からず首を傾げている。



 ただひとつハッキリしているのは――フェリオのやり場のない敵意が、真っ直ぐ俺に向けられていることだけだった。

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